超高速カーブのような――ベン・トー2感想




 バックトゥザフューチャーにしろ、涼宮ハルヒにしろ、二作目は一作目より落ちることが世の習い。とりわけ、元々シリーズ化を前提にしていなかった場合はなおさらである。『ベン・トー』の続編が出ると聞いたとき、危惧したのはそのことだ。ことに、『ベン・トー』は半額弁当争奪戦に各自の誇りを胸に決死の覚悟で挑む連中を描いた一発ギャグ的な作品である。二作目になれば、半額弁当争奪戦というネタのインパクトも薄れ、苦戦するのは必至と思われた。だが、予想は見事に裏切られた。『ベン・トー2 ザンギ弁当295円』(アサウラ著、集英社スーパーダッシュ文庫)は傑作だった前作をも上回る大傑作だったのだ。何故か。それは私が『ベン・トー』の真価を見誤っていたことにある。『ベン・トー』は単なるギャグ小説ではない。破壊的ギャグ小説でありながら、超王道の成長小説でもあったのだ。

 『ベン・トー』はギャグとシリアスの落差が尋常ではない。だが、それは普通の意味とは異なっている。
 例えば、『コードギアス 反逆のルルーシュ』はギャグとシリアスの差が著しい作品だ。だが、『コードギアス』では、明らかなギャグと明らかなシリアスを、一話の中に盛り込んで、その落差で勝負している。野球に例えるなら、カーブと剛速球をちりばめて打者を打ち取るような投球だ。
 『ベン・トー』は違う。『ベン・トー』のギャグは車に撥ね飛ばされたりいじめを受けたりといった、見方によっては笑えない、シリアスな内容のものが多い。一方、シリアスなシーンも、やっていることは半額弁当争奪戦なのだから、見方によってはギャグだ。つまり、『ベン・トー』は全編これシリアスであり、ギャグでもある。時速150kmのカーブを連投しているような、奇跡のような作品なのだ。

 ギャグでもあり、シリアスでもある。作者はそのことを、複数の視点を交錯させることで、鮮やかに浮かび上がらせる。ことに、馬鹿な佐藤の視点で語られていた事件を、内心常識人の箸莪や遠藤が語り直す箇所には、ほろりとさせられた。 



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