固有性のある商品の作り方――キャラクターメーカー感想




 『キャラクターメーカー 6つの理論とワークショップで学ぶ「つくり方」』(大塚英志著、アスキー新書)は物語、評論の両方に役に立つ。本書の目次を以下に引用しよう。

第1講 アバター式キャラクター入門
第2講 トトロもエヴァンゲリオンも「ライナスの毛布」である
第3講 手塚キャラクターは何故テーマを「属性」としているか
第4講 雨宮一彦の左目にバーコードがあるのは何故か
第5講 自分から何もしない主人公を冒険に旅立たせるためのいくつかの方法
第6講 影との戦い

 第2〜4講は全て「移行対象」の様々なバリエーションについて論じたものだ。作者がいかに移行対象を重んじているかが分かる。実際、「ブギーポップ」やキノの旅の「エルメス」など、印象的な「移行対象」キャラは多い。最近読んだ小説では「死図眼のイタカ」がまさにばりばりの移行対象キャラだ、という風に、評論にも使いやすい概念だ。
 一方、第5講は「主人公」と「主人公を旅立たせる者」、第6講は主人公の「影」について論じている。つまり、物語には、「主人公」、「移行対象」、「主人公を旅立たせる者」、「影」の四種類が必要だということだ。このことを踏まえて物語を作ると、キャラクターやシーンの意味づけがはっきりするので、無駄の無い構成になるだろう。
 ただ、近年は、『戯言シリーズ』に代表されるような、物語性の薄いフィクションが台頭している。そういったフィクションがどうして支持されているのかに関しては、本書の理論は届かない。

 本書には、「つくり手の「私」に根差す表現」を商品たる物語の中で、如何に実現するか、というテーマが伏流水のように流れている。出来る限り何ものにも縛られず、自由気ままに作品を作れば、個性豊かな作品が作れるのかも知れないが、それでいて面白いものを作るのは至難の業だ。それよりは、理論に基づいてストーリーやキャラクターを構築して、最低限の面白さを担保した上で、作り手の個性を発揮する方が確かに合理的なのだろう。例えば、乙一氏の小説は、かなり基本に忠実な構造で書かれているにも関わらず、極めて個性的である。



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