経済と幸福の間――デフレの正体感想



 『デフレの正体――経済は「人口の波」で動く』(藻谷浩介著、角川oneテーマ21)は2010年のベストセラーだが、今読んでも示唆に富む。
 アマゾンのレビューを見ると、全体としては高評価をつけている人が多いのに、評価の高いレビューは軒並み酷評になっている。一部の人にとってはよほど癇に障る本であるらしい。
 本書の主張を一言でまとめると、「内需は生産年齢人口数との相関が高い。」ということだ。本書への反論として、「生産年齢人口が減少しているが経済成長している国は沢山ある。」という人がいるが、「生産年齢人口が減少しているが内需が拡大している国は沢山ある。」ということでないと反論になっていない。どうなんでしょうか。

 本書の付加価値の説明は大変勉強になった。製造業よりサービス業の方が付加価値率が高く内需拡大に貢献するというのは目からうろこだ。この観点からすると電子書籍より紙の本の方が付加価値率が高いと言える。さらに言うなら、青空文庫など書籍市場の付加価値額を減らしまくる最悪の存在であり、ろくに読みもしない本をどんどん買って、どんどん捨てるような行動こそ素晴らしいということになる。
 それって絶対おかしいよ!
 問題は楽しみを測る指標が存在しないことだ。青空文庫は経済的には全く寄与していないどころか、小説の付加価値を下げ内需を縮小させているが、国内総楽しみ量の増加には寄与している。一方、本を読まずに捨てる行為は経済的には内需の拡大に寄与してはいるが、読んでないので国内総楽しみ量は増加しない。そして国内総生産と国内総楽しみ量のどちらが重要かと問われれば、そりゃあ国内総楽しみ量じゃないかと思うわけだ。
 もちろん、デフレになると社会的弱者にだけしわ寄せがいくため、内需の拡大は重要である。しかし、長期デフレ間のインターネットの普及によって、世界中の面白い情報に手軽にアクセスできるようになり、国内総楽しみ量は増加していることが推定できる。経済学者は国内総楽しみ量のようなデータを何とかして算出できないか頭を絞るべきではないか。

 経済に関しては素人より経済学者の方が詳しいのは当たり前である。だが、各種経済指標が良くなることと生活実感が好転することの間にはギャップがあり、生活実感の方が重要であるにも関わらず、多くの経済学者は経済指標を良くするための策しか提案しない。そういう潜在的な不満に上手く答えたからこそ、本書がベストセラーになったのではないだろうか。

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