偉大な物語はシンプルである〜銀盤カレイドスコープvol8,9感想
神だと思った。思うだけではなく繰り返し何度もつぶやいた。頭の中が痺れてしまって、次の小説を手に取れなかった。
銀盤カレイドスコープ(海原零著、集英社スーパーダッシュ文庫)が完結した。予想をさらに上回る、素晴らしい終幕であった。まだ読んでいない方はすぐさま書店に走るべきだ。ぐずぐずしていると、どこかのサイトでうっかりネタばれ感想を読んでしまい、取り返しのつかないことになる恐れがある。
まいじゃーのネタばれ掲示板にも書いたのだが、銀盤カレイドスコープのストーリーはシンプルだ。快楽を生み出すのは上昇と下落の組み合わせだ。これは『狼と香辛料』や『イリヤの空、UFOの夏』にも当てはまる。結局の所、物語の快楽とは視点人物の心の上下動なのではないかとさえ思う。もちろん、ミステリーのトリックやSFのセンスオブワンダー、純文学のフロンティアスピリットだって私の心を揺さ振る。しかし、銀盤カレイドスコープのような、シンプルなストーリーで心の動きを追った小説は、他の小説より力強い、王者の快楽とも言うべきものを与えてくれる。銀盤カレイドスコープは、構成、演出も考え抜かれている。だが、やはり一番心に残るのは、タズサのリアのガブリーの強い想いだ。物語を作る時にまず考えるべきはストーリーでもテーマでも構成でも演出でもなく、登場人物の想いなのではないか。
最終巻では、高めあうライバルというテーマが浮かび上がる。彼女達は、ライバルに何かを与えようと思っているわけではなく、ただ、自らの意思で高みを目指す。だが、渾身の力で高みへとよじ登っていく行為が、結果的にライバルに力を与えるのだ。それはとても幸せで素敵な関係だ。
きっと海原さんは、ただただ最高の小説を目指して渾身の力でこれを書かれたのだろう。そして私は、遥かな高みにいる海原さんから、確かに力を受け取って、新しい小説を書き始める。
トップページに戻る