何故四コマ小説は存在しないのか――GJ部感想




『ライトノベル史上初の萌え四コマ的小説登場!?』という紹介文にひかれ、『GJ部』(新木伸著、ガガガ文庫)を読んだ。
 『生徒会の一存』や『ラノベ部』は、ライトノベルに萌え四コマ的世界観を導入したが、一話の長さは短めの短編程度で、四コマ漫画のノベライズ――四コマ小説と言えるようなものではなかった。『GJ部』は一篇がわずか四ページであり、四コマ小説に漸近している。一部の話(『定食の掟』など)はそのまま四コマ漫画にコミカライズできそうだ。だが、それでもほとんどの作品は、四コマ漫画よりも内容が多い。
 長編、短編、シリアスからギャグまで、あらゆるジャンルで、漫画とそれに対応する小説が存在するのに、何故、四コマ漫画に対応する四コマ小説だけが存在しないのだろうか。それには二つの点で、四コマ漫画があまりに優れているからだ。
 第一に、四コマ漫画は描くのが簡単である。もちろん、面白いアイデアを考えるのは難しいが、思いついたアイデアを四コマ漫画にするのは、小説にするのに比べ、それほど多くの労力を要しない。一方、ストーリー漫画は、同じ内容の小説を書くよりも、はるかに多くの労力を要する。絵が下手だから、あるいは、絵を描くのが大変だから、漫画を描かずに小説を書いている長編作家は存在するが、四コマ漫画を描くのが大変だから、小説を書いている作家というのは聞いたことがない。小説は一般的に、漫画より書くのが楽という優位性があるが、四コマ漫画に対しては、優位性が存在しないのだ。
 第二に、四コマ漫画は情報伝達速度が異様に速い。一作品を四秒以内で読むことが出来る。一方、四コマ漫画をノベライズした場合、まず、状況を説明しなくてはいけないし、一作品を読むのに、数十秒はかかりそうである。これだけ優秀なライバルがいては、四コマ小説の出番がないのも無理は無い。一方、長編小説をコミカライズした場合、内容を大胆に端折らない限り、小説一冊が漫画数冊に相当する。これだと、小説で読んでも漫画で読んでも、情報伝達速度にそれほど違いはない。四コマ漫画の速さは際立っている。
 だが、読者は常に速い情報伝達を求めているのだろうか。
 例えば、日曜の昼間にやっているマラソン中継。選手の一挙手一投足を食い入るように見つめていれば、多くの情報を得られるのかもしれないが、普通に見ている視聴者にとって、時間当たりに得られる情報は極めて少ない。つまり、情報伝達速度が遅い。にも関わらず、月に一度くらいは何らかのマラソン中継を、二、三時間もかけて流しているのだから、そこそこ視聴率は良いのだろう。
 例えば、バラエティー番組『お試しかっ!」の中の人気コーナー『帰れま10』。あのコーナーを見て得られる情報は、チェーン店の人気メニューランキングだけである。一気に紹介すれば、数分で伝えられる情報を延々と引き伸ばして放送している。もちろん、芸人のトークという情報はあるが、タカアンドトシの漫才に比べれば、圧倒的に密度は薄い。にも関わらず、お試しかっ!はゴールデン番組に昇格した。
 要は、人は、まったりしたい時は、情報伝達速度が低い方が好きなのだ。『GJ部』は元々情報伝達速度の低い四コマ小説を、改行の多い文体と、空白を大きくとった四十点以上の小さなイラストでさらに密度を薄め、極めて高いヒーリング効果を与えることに成功している。最初は何だかぬるい小説だなあと思っていたのが、だんだん読んでいる内に、顔がにへらあっとなってきて、ずっぽりはまっている。『グルーミングタイム』なんか、本当にキョロが部長の髪をとかすだけの話だが、すごく癒される。
 『GJ部』は小説の新たな階段を上がった。



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