上る昭和と下る平成――半沢直樹とあまちゃん感想



(本稿は「半沢直樹」と「あまちゃん」の内容に触れています。)

 『半沢直樹』(TBS日曜21時〜)は昭和の香りのドラマだ。銀行員が男ばかりで妻が専業主婦な所とか、敵役がゴージャスな愛人を連れ歩いている所などもそうなのだが、一番昭和っぽいのは主人公半沢直樹の強烈な上昇志向だ。
 地方から東京へ行くことを上京と言い、電車に上り線と下り線があるように、東京と地方は上下で表現される。半沢直樹は最初大阪西支店に勤務しているのだが、マニラに飛ばされそうになり、銀行員として東京本社に行くため戦う。ここでは東京本社>大阪西支店>マニラという明確なヒエラルキーが存在している。

 一方、『あまちゃん』(NHK8時〜)の主人公天野アキは東京でいじめにあって北三陸へやってくる。アキはたちまち北三陸になじんでしまい、東京へ帰るのを拒む。必死に東京へ行こうとする半沢直樹とは全くベクトルが逆の主人公なのだ。
 ドラマは葛藤である。上昇しようとする人間は周囲との摩擦を生み、それが主人公に葛藤を生じさせるが、下降する際は摩擦も葛藤も生まれない。半沢直樹は周囲に摩擦と葛藤を撒き散らしているが、天野アキは周囲に全然摩擦を生み出さない。ドラマの主人公としてみると、半沢直樹を動かす方が断然楽である。

 物語の後半でアキはアイドルになるため再び上京する。北三陸でのんびりしていては摩擦や葛藤が生じないので、作劇上当然である。だがアキは北三陸の方が好きな上昇志向の希薄な子なので、自分の意志だけでは芸能界でのし上がろうとはしてくれない。だから脚本家はユイや春子といった上昇志向の強い奴らを周囲に配することで、何とかアキを芸能界に止まらせているのだ。

 各種調査によると、若者の地元志向が強まっているという。私は世代的には天野アキより半沢直樹に近いが、人間的に共感できるのは圧倒的に天野アキで、半沢直樹は共感の対象というよりスーパーマンだ。
 動かしやすいが若者の共感を得にくい昭和型主人公にするか、若者の共感は得られるが動かしにくい平成型主人公にするか。現代の物語作者は難しい二択を迫られている。

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東雲製作所評論部(感想過去ログ)