最近の東雲


国会図書館でライトノベルを読んできた



 国会図書館。日本で刊行された本の全てが納められた知の殿堂。銀縁眼鏡に黒のスーツで固めた職員達が、訪れるもの全てを眼光鋭く制し、警視庁の精鋭が入り口を固めて蟻の這い出る隙間も無い。入るには身分証を提示し、何枚も書類を書き、審査を受けねばならない。資料は全て閉架式。本の貸し出しを頼むと、全ての棚を知悉した職員が、「しばしお待ちを。」と身を翻し、決して走らず、最短ルートを巡って本を書庫から抜き取り帰還する。利用者は、部屋の四方から睥睨する厳重な監視など目に入らぬよう論文執筆に没頭し、入試会場のような緊張感が漂っている。
 という風なイメージを抱いていた。そんな所で私が読もうというのは、この二冊だ。

『東京忍者 総集編 ぶらじま太郎 富士見ファンタジア文庫』
『死人にシナチク 藤井青銅 アニメージュ文庫』

 職員がちらと視線を上げ、
「失礼ですが、どういった目的で利用なさるのですか。」
と慇懃に聞いてくる姿が目に浮かぶではないか。その時の回答も用意していった。「ライトノベル史の研究です。」

 結論から言うと、私のイメージは間違っていた。身分証の提示は要らなかったし、入り口を固めていたのは格闘技の心得がなさそうなお姉さん達だったし、本は端末から申し込んで取りに行く方式なので、借りる理由を聞かれたりしないし、本は館内を自由に持って歩いて好きなところで読むことができた。こんな警備では、怪盗なら簡単に本を盗めそうだが、貸し出しは一回三冊までだし、顔を見られるので、労力に見合わないんだろうな。
 利用者は大学生が多くて全体的に大学図書館みたいな雰囲気で、司書さんも適当な格好をしていた。私の前に座った大学生は『キャプテン翼』を読んでいた。
 端末では、本の検索ができるので、色々なキーワードで調べてみたのだが、「創雅都市S.F.」のような通販本は所蔵していないようだ。後世の研究者のために納本しておけば良いのに。一方、「東雲長閑」で検索したら「ショートショートの広場」がヒットしたのでにやけてしまった。アンソロジーの個々の作者名まで入力しているらしい。
 驚いたのは、食堂、喫茶店、売店、ATM、公衆電話に床屋まであること。これで風呂さえあれば、一生ここに住みたい程だ。住むのはともかくとして、パソコンが持ち込めるので、執筆環境としては最高ではあるまいか。

 本の感想だが、『死人にシナチク』は次々と繰り出されるおたく蘊蓄ギャグが、あさりよしとおさんのイラストともども全然古びていないのに感心し(1987年の本なのに!)、いつの時代もおたくは変らないのだと思った。『東京忍者』の方は、ストーリーを破壊したことに対する文学的評価はともかくとして、読み通すのが大変だった。 (05.9)



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