荒野の恋 感想




 僕は嫉妬する。星野スミレに嫉妬するジャイアンのように嫉妬する。
 設定はありふれてるじゃないかと強がりを言う。同じ設定の漫画なんか掃いて捨てるほどあると憎まれ口を叩く。
 なのに。
 だからこそ。
 心をぎゅっと握り締めるような、嵐のような恋を鮮やかに書いてしまう桜庭さんの感受性に嫉妬する。絶望する。
 僕には死ぬまでかけても追いつけないと思う。

 これまでの桜庭作品は、計算され尽くされた鮮やかな剣になで斬られた感じだった。だが、本作は、クライマックスで、大上段から、桜庭さん渾身の面が降ってきた。主人公の荒野と一緒になって大きな波に攫われた。
 十二歳のころの自分は絶対こんなではなかったと思う。青年の時にも荒野を目指してなかったと思う。感受性を金庫に仕舞い込んでだらだら過ごしてきたがために、今頃になって鈍りきってしまったのを感じて後悔しても遅いと思う。
 本作によれば、小説家はハングリー・アートだという。この世の大事なものを犠牲にしなきゃ、その場所には立てない、ギリギリの生き方、ハングリー・アート。僕はそこに逆説的な希望を見る。天才桜庭一樹だって、天性の才能でそこに立っている訳じゃない。ぎりぎりの勝負を続けて続けてようやく突破口を見つけて、今溢れんばかりの才気を噴き上がらせているのだ。
 だったら僕も荒野を目指す。ぎりぎりの小説を書き続けて、いつの日か必ず桜庭さんの背中を捉えてみせる。書いてやる、と決意した。。



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