構造の時代を告げるフロントランナー――魔法少女まどか☆マギカ感想

　（本稿は魔法少女まどか☆マギカの重度のネタバレを含みます。）

　魔法少女まどか☆マギカのユニークな所は、終盤まで物語構造が隠蔽されていたことだろう。
　最初の数話を見た段階で、視聴者は以下のような物語構造だとミスリードされる。
主人公：まどか
敵対者：魔女
対象：街の安全
使者、依頼者：キュゥべえ
賢者：キュゥべえ
　すなわち、「まどかがキュゥべえの依頼で、キュゥべえから授かった力で、街の安全を守るために魔女と戦う話」だと思い込む。

　謎めいていたり、どんでん返しがあるアニメは過去にもしばしば存在した。だが、その場合も、設定が隠されていたり、味方だと思っていたキャラが実は敵だったというようなレベルの隠蔽だった。まどか☆マギカが真に革新的なのは、主人公が隠蔽されている点だ。

　まどかがなかなか魔法少女にならないので、なんだか変わった魔法少女ものだな、とは思うが、まどかが主人公でないとは思いもよらない。何せ、タイトルが「魔法少女まどか☆マギカ」なのだから。
　だが、十話で、この物語の真の主人公がほむらであることがはっきりする。すなわち、まどか☆マギカの真の構造はこうだ。
主人公：ほむら
敵対者：キュゥべえ
対象：まどか
使者、依頼者：まどか
賢者：キュゥべえ
　主人公だと思っていたまどかは実は守るべき対象にすぎない。すなわち、ほむらが勇者で、まどかはお姫様なのだ。何だ、「魔法少女まどか☆マギカ」ではなく、「魔法少女ほむら☆マギカ」じゃないか。騙された！

　だが、最終話に至って構造がひっくり返る。
主人公：まどか
敵対者：魔女を生み出す世界
対象：全ての魔法少女
使者、依頼者：ほむら
賢者：キュゥべえ
　守られてばかりのお姫様が、最終話でついに立ち上がり、主人公になる。かくして、このアニメがやっぱり「魔法少女まどか☆マギカ」であることが示されたのだ。

　まどか以前のアニメ界は、けいおん！に代表されるような反構造的な日常アニメが優勢だった。だが、東日本大震災を経た今、あらゆるフィクションにおいて、がっしりとした構造を持つ、「大きな物語」が復活するだろう。「魔法少女まどか☆マギカ」は一瞬だけ時代を追い抜いたフロントランナーなのだ。

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