2004年小説年間BEST10



 東雲長閑が独断と偏見で決定した昨年の小説BEST10です。通常、こういう企画では、昨年発売の小説から選ぶものですが、私はあまり新刊を読まないため、発売時期は問わず、去年読んだ中で面白かった順に並べました。
 一行感想では読んだことのない人に不親切なことばかり書いているので、この企画では未読の人が読みたくなるような書評を目指して書くはずが、時間と気力が不足しているため端的に思い浮かんだことをつらつら書きました。手抜きで済みません。
 尚、一作家一作に絞り、超有名な旧作は外しました。


1後宮小説  酒見賢一  新潮文庫


中国架空王朝の後宮を舞台とした四人のお后候補の奮闘記。
元祖にして既に至高の萌え小説。単に萌えるだけでなく、生の喜びと哀しみが伝わってきて格調高い。凡百のヒロインわんさか萌え作品はこれを読んで出直すべし。


2とある魔術の禁書目録  鎌池和馬  電撃文庫


幻想殺しの右手を持つ主人公が様々な強敵と闘う話。既刊四巻全てが面白い。
燃えるバトルシーンも良いけど、一番の魅力は困っている人がいたら助けたいという真っ直ぐな主人公じゃないかな。


3マルドゥック・スクランブル  冲方丁  ハヤカワ文庫


少女娼婦とその仲間達が裁判を妨害しようとする敵と闘うはずが何故かカジノ小説。
全編、特にカジノシーンから作者渾身の筆圧がぐっぐっと伝わって来る。重たいテーマと向き合って、安易なカタルシスに逃げなかったのもさすが。

4さよなら妖精  米澤穂信  東京創元社

ユーゴスラビアからやってきた少女、マーヤとの出会いと別れの物語。
異世界からの訪問者によって、ありふれた日常が見事に異化していく。去ってしまっても共に過ごした日々は残る。問われるのはその上でどう生きるかだ。

5されど罪人は竜と踊るX そして、楽園はあまりに永く  浅井ラボ  角川スニーカー文庫

主人公のコンビが依頼人の少女を守るべく絶望的な戦いをする話。
死に至る病は絶望だが、絶望して尚死に至ることすらできぬ真の絶望が描かれる。フィクション全否定みたいな記述すらあり。

6鉄塔 武蔵野線  銀林みのる  新潮文庫

二人の少年が秘密の原子力発電所を目指して鉄塔を辿っていく夏休み小説。
これを読んで、関心が無いものは見えていても見ていないということを気付かせてくれた世界変革小説。見ていないものは鉄塔以外にも色々あるはず。

7推定少女  桜庭一樹  ファミ通文庫

ボク少女の大人からの逃避行にしてお手本の様な成長物語。
大人になるよう迫られて中学生のカナは逃げたけど、私は逃げちゃ駄目なのかがいまだに分からない。でもカナ達の血が迸るような叫びからは遠くに来てしまったな。

8君の嘘、伝説の君  清水マリコ  MF文庫J

不思議なボーイミーツガール物。
失われてしまったものはそれ故に心を捉える。いつかは前向きに歩き出さねばならないから、それまでこの美しい残響を聞いていよう。

9カラミティナイト  高瀬彼方  ハルキ文庫

ばりばりのファンタジー世界と交錯する異色の学園物。
主人公がネットで小説を発表している内気な少女なので、無茶苦茶共感していたところに怒涛の鬱展開が襲来し、見事に打ちのめされた。リアルなネガティブ思考を書かせたら本邦随一。

10神様家族  桑島由一  MF文庫J

願いが何でもかなう神様の息子の成長物。
よくある学園ラブコメだと思っていたら、度肝を抜かれた。ただ坂道を登るというありふれた行為を見事に異化している。これは文学だ。

他にも、どんでんがえしにやられた デュラララ!(成田良悟、電撃文庫) や、色々と考えさせられる All You Need Is Kill(桜坂洋、スーパーダッシュ文庫) 他多数が入れられませんでした。
最後に雑誌掲載のみで本になっていないもののBESTを挙げて締めさせて頂きます。

番外 日本一の触手者 だってまゆみはもうオトナだから  古橋秀之  電撃h

ロリコン漫画の編集者まゆみが担当漫画家のために突撃するSF。
馬鹿だ。馬鹿すぎる。そして大好きだあ! 古橋作品では「サムライレンズマン」の次に好き。作者がのりのりで書いているので文章がいきいきしてるよ。


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