未来のミステリー―ロウきゅーぶ!感想




 『ロウきゅーぶ!』(蒼山サグ著、電撃文庫)を読んで二度泣きそうになった。試合の最初の作戦が発動したシーンと、試合の最後のシーン。泣かなかったのは電車内だったからで、家で読んでいたら間違いなく泣いていた。
 どうしてこれほど心動かされたのだろう。
 初めは選手達の友情に心動かされたのだと思った。最後のシーンに関しては、確かにその側面はあるだろう。だが、試合の最初のシーンは、登場人物の感情に関しては特に感動的なシーンではない。

 考えるうちに思い至った。この感動は唯一解が示された気持ちよさなのではないか。優れた小説の条件の一つは設定やエピソードの必然性が高いことだ。『ロウきゅーぶ!』では、クライマックスの試合のシーンの展開の必然性が極めて高い。主人公昴の取った戦術、そしてラストの展開は、この条件下で互角の勝負をするための、殆ど唯一解と言って良い。唯一解にするために、作者は、条件をシビアに詰めている。個々の選手の技量、スタミナ、精神力、それに相手のコーチの知能まで。その上で徹底的にご都合主義的展開を廃している。その上で浮かぶ一筋の光明が感動を生む。
 唯一解と考えて気がついた。『ロウきゅーぶ!』はミステリーだ。探偵の昴が、女子バスケ部を勝たせる方法を推理する小説なのだ。普通のミステリーは、過去に起こった謎を推理するが、『ロウきゅーぶ!』は、未来に起こる謎を推理する、未来のミステリーだ。

 本作のもう一つの魅力が友情と師弟関係だ。姜尚中氏が指摘していたことだが、『こころ』で夏目漱石が信頼し得る関係として挙げたのがこの二つだ。恋愛関係や親子関係にはどうしてもエゴが入ってしまう。それに対して、友情関係と師弟関係は、時に極めて無私で純粋で美しい。同じくこの二つの関係を中心に成り立っている『ARIA』の世界が美しいように。
 作者は恋愛小説にしないために、高校生のコーチと小学生のヒロインという設定にしたのではないだろうか。



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