老ヴォールの惑星 感想



 『老ヴォールの惑星』(小川一水著、ハヤカワ文庫)は四作からなる短編集だが、一水さんの最高傑作だと思う。特に表題作が素晴らしい。一作づつ感想を書く。ネタばれを出来るだけ避けるよう書いたので、読んでないとかなり意味不明。

「ギャルナフカの迷宮」
『導きの星』でも思ったのだが、一水さんのラブラブ描写は本当に相手のことを愛しいという想いに溢れていて温かくてぎゅっとしたくなる。物語の骨格もリベラルよりの作者らしいメッセージが詰まっていて好き。

「老ヴォールの惑星」
最後の一文を読み返す度に、じわじわと涙が込み上げてくる。この感動はSFならではのものである一方で、やっぱり人間のことを書いているからだと思う。私達は遥か遥か後の誰かにこう言って欲しい。そして私達は誰かにこう言うことが出来るのだ。

「幸せになる箱庭」
ホラーやサスペンスで使われがちなテーマで敢えて肯定側に立った点が新しい。ただ、常識に捕らわれているだけにしろ、嫌だと思う感覚もまた、考える出発点だ。

「漂った男」
「走れメロス」みたいな友情と「変身」みたいなコミカルさが良い。そういえばラストのぐっとくる展開は「電車男」とも似てるかも。

全体的に、価値観は相対的なものだという話なんだけど、むしろどんな状況下でも変らぬものを描いているとも言えるなあ。



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