東雲文芸14――二人称小説
糞食らえ



人の発言には裏がある。

あなたの同僚がこう言ったとしよう。
「この間、彼女に告白したら、『糞食らえ。』と言われたんだぜ。ひどくねえ? 」
ひどい。一見確かにひどい。だが、まず、同僚が言っていることが事実だとして、裏の事情があるのかも知れない。
例えばこんな場合だ。

同僚「あなたのことが好きです。俺とつきあって下さい。返事を次の三つのうちから選んで下さい。
   1)私もあなたのことがずっと前から好きだったの。
   2)つきあっても良いですよ。
   3)糞食らえ。」
彼女「・・・・・・糞食らえ。」

あなたはぜひともことの真偽を確かめねばと思う。同僚の悲劇は他人事ではない。何せあなたも彼女に恋しているからだ。

 あなたは彼女を呼びとめ、沈黙する。一秒、二秒
「あ、あの・・・・・・」
「何でしょう。」
えっと、何と言って聞けば良いのだろうか。あなたは同僚に糞食らえと言ったのですか。もし言ったのならば、そこには斟酌すべき事情があったのですか? しかし、もし言ったということ自体が嘘であったなら――
「あ、そうそう。」
彼女は満面の笑みを浮かべると、
「糞食らえ。」
自分の机から、コピ・ルアクの袋を取り出すと、あなたに渡して去っていった。

(08.06)

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