東雲文芸42――書き出し小説





十年ぶりに出会った彼女を見て、僕はまだ自分が上手く失恋できていないということに気がついた。

デイリーポータルZ書きだし小説大賞に採用されたのを記念して、没作品を一挙公開します。



俺の名前は織田信長。みんなにはうつけって呼ばれてる。



メロスは激怒して捕まって約束して帰って走って間に合った。



私は自分の首が跳ね飛ばされるのを呆然と眺めていた。



昔々あるところにおじいさんとおばあさんがおったが、今はもうおらんということじゃ。めでたしめでたし。



耳毛のことなら誰にも負けない自信がある。



電車はセイウチでごった返す渋谷駅のホームに滑り込んだ。



解散を宣言しようという首相の企みは、同僚議員達による「瞳をとじて」の大合唱により阻まれた。



「なめとんのかわりゃあ」
番長は手に持っていたジャンプをねじ切ろうとして失敗し、何事もなかったかのように続きを読み始めた。



袋小路の角を右に曲がるとはざま横町に出る。



政界渡り鳥と呼ばれた鈴木又蔵も、まさか自分が本当の渡り鳥になろうとは思ってもみなかったに違いない。



徹夜明けの課長を起こさぬよう、社長はささやくような声で訓示を述べた。



三年にわたる厳しいトレーニングの結果分かったのは、俺には二度寝の才能がないということだ。



レベッカはスコープに標的を入れ、トリガーを引く前に、こう唱えることを自らに課していた。
「ワイルドだろう。」



一晩くらい泊っていけよ、という信長の誘いを必死に断り、僕は本能寺をあとにした。



とりたてて言ったつもりはないのだが、僕が犬だということは社内では周知の事実らしい。



「犯人はお前だ! 」
探偵が隣の男に人差し指を突き付ける。
名探偵と言えども間違うこともあるんだな。



これは尻すぼみな話だ。最後のページをめくった時、あなたの胸は残尿感に包まれるだろう。



夜が来て、岬のバス停にもう君は来ない。




 投稿を重ねる内に分かってきたのは、選者の天久聖一氏が書き出し小説をネタコーナーのようなものではなく文学作品として捉えており、描写が重要だということだ。個人的には東雲長閑の持ち味は脱力ギャグだと考えており、「政界渡り鳥―」などは自信を持って投稿したのだがかすりもしなかった。逆に、自分らしからぬ作風の「十年ぶりに―」が採用された。これからはちょっと気取って書いた方が良いのかも知れない。
 書き出し小説大賞はフィードバックが早いので小説修行上大変勉強になる。天久さん、有難うございました。これからも宜しくお願いします。

トップページに戻る
ひとつ前の東雲文芸に進む