最近の東雲?


いけふくろう



 知人と池袋の「いけふくろう」で待ち合わせをした。池袋駅構内は迷宮の如き様相で、いけふくろうにたどり着くまでに何度も道を聞かねばならなかった。
 いけふくろうとは小型のフクロウの石像で、待ち合わせ場所として有名だ。私が到着すると、柵で囲まれたいけふくろうの周りには十人程が思い思いの格好で人を待っており、それとは別に周りの壁際に立っていけふくろうを観察している人も十人くらいいる。彼らは平均十分程度で待ち合わせ相手と出会い、立ち去っていくが、待ち人もまた常に補給されているので、いけふくろう周辺に存在する待ち人の数は常に一定である。午前七時から午後九時までこの状態が維持されていると仮定すると、いけふくろう利用者数は336人/日となる。平日はもっと少ないだろうからざっと200人/日と概算すると、私が生きてきた二十七年間にのべ1971000人が利用している計算になる。
 それだけ多くの人が待ち合わせていれば、色々なことがあっただろう。何十年ぶりの再会もあっただろうし、待ちぼうけをくらって二度と会えなかった人もいただろう。この場所にはどっしりと何かが降り積もっているように思えた。

 私が待っていた間にも色々な人が待っていた。「何で時間通りに来たのに誰もいない訳? 」と唯一来ていた女子にぶつくさ言っていた奴は、男女五対五の集団でどこかに遊びに行きやがった。こんな時分から異性と遊びに行っていれば、全然行っていない私と遥かな交際能力差がつくのは当然である。
 私は相手が電車の事故で遅れたため、延々と待っていたのだが、もう一人延々と待っている女性がいた。彼女は、ベレー帽をかぶり、数字柄の迷彩っぽいワンピースに金色の靴という個性的な格好で待っていたが、その内、いけふくろうに両手を当て、無言で会話を始めた。やがて、彼女の待ち人の女性が「ごめ〜ん!」と登場し、抱き合うと、雑踏へと消えて行った。
 気がつくと、辺りには誰もいなかった。軍服の男性がやって来て、柵を乗り越えた。いけふくろうの首に手を掛け、回し始める。やがて首が外れた。いけふくろうの中から絣の着物を着た子どもが出て来て、男性に一個の鈴を手渡した。男は肯くといけふくろうの中に体を沈める。子どもはふくろうの首を元に戻すと、何時の間にか回復した人込みを縫うように駆けていって見えなくなった。
(06.04)



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