最近の東雲



夏樹静子×梅沢由香里講演会と文学フリマと電撃15年祭の感想



 「最近の東雲」は本来東雲長閑が最近経験したことについて書く連載である。しかしながら、最近の最近の東雲は最近のことではなく数ヶ月前のことばかり書いていた。取り上げるイベント等が溜まってしまっているからだ。そこで、去年参加したイベント三つを一気に取り上げて在庫一掃を図ることにした。


1)夏樹静子×梅沢由香里講演会「囲碁と心のミステリー」
 千葉にある東邦大学の公開講座として行われた作家とプロ棋士による対談。
 最も興味深かったのは夏樹氏がある日突然腰痛で椅子に座れなくなり、ありとあらゆる治療を試みたがまるで駄目で、最後に精神科に行ったら心因性だと指摘されたという話。自分では小説を書くのが好きだと思っていたが、無意識が書くことを拒絶していたのが原因で、一年間の断筆を宣言したら、快方に向かったとのこと。
 また、「テーマかトリックかシチュエーションを膨らませる」といった創作術も参考になった。
 一方の、梅沢氏は極度の上がり症のせいで決勝戦になると自分が自分でないような状態になってしまい、長年タイトルが獲れなかったが、一回中国の大きな大会で勝ったのをきっかけに克服して、タイトルを獲ることができたという。
 また、棋譜の提供をした『ヒカルの碁』では途中で意外な手があり、途中でチャンスがあって、という風に条件が厳しかった。塔矢名人対佐為戦はトッププロの棋譜を使った(確か林海峯vs依田戦)といった裏話も聞けた。
 考え深くかつ楽しかった。


2)文学フリマ
 今年は評論系の本に絞って買いました。
『フランス書院美少女文庫総解説』NMTP
 同人誌としてはやや高めだが、内容は商業出版物並にかっちり作られているのでむしろ安い。
 美少女文庫を読んだことのない人でもこれさえ読めば美少女文庫通、といった丁寧さで、読んでいて面白いが、これだけでお腹いっぱいな感もある。
 わかつきひかるインタビューでは「現実の女の子を付き合ってセックスしてください」発言に「それが出来たら美少女文庫なん読むか〜〜〜い!!」と思ったが、読者に嫌われるの覚悟でこういうことを言うのは、庵野監督が「オタクよ現実に帰れ」と言ったのと同様、誠実である。全体的に苦労人であることが伝わってきて、私などまだまだだと感じた。

『物語の(無)根拠』 シノハラユウキ
 ミステリはメタを目指す形式であるのに対し、『Self−ReferenceENGINE』はSFであるが故にメタを志向しない『インターフィクション』たり得た、という部分が白眉だ。
 本書で主に取り上げている佐藤友哉氏と阿部和重氏の小説を殆ど読んでいないため、シノハラ氏の論説がどの程度的を射ているのか分からないのだが、この人は文章が上手いと思う。論理展開が自然なので、高度なことを論じているにも関わらず、一読で内容が頭に入ってきて感心した。


3)電撃15年祭
 最も面白かったのは竹宮ゆゆこ氏が「のらたらこ」との公園デートを記録した一連のスナップ写真。常人には「のらたらこ」という発想がまず出てこない。あとはダンボーと記念写真を撮れたのが良かった。
 物販コーナーは列が1キロくらい(主観的表現)続いていたので回避。もっと売り子さんを増やせないものか。

(08.01)



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