最近の東雲



ウルヴィーノのヴィーナス展感想



 メーデーに国立西洋美術館のウルヴィーノのヴィーナス展を見に行った。押すな押すなの人だかりかと覚悟していたが、祝日ではないこともあってか、ほどほどの人の入りだった。客層は年配者から若者まで男女を問わず幅広い。

 最初の部屋は古代ギリシャの作品で、徐々に時代を下っていく順に配列してあるのだが、古代ギリシャの彫刻も、中世ルネッサンスの彫刻も出来に差がないことに驚いた。芸術作品というものは、結局のところ、いつの時代も個人の能力に拠っているのだ。

 「ウルヴィーノのヴィーナス」は目玉作品であるだけあって、完成度で一頭地を抜いていた。そして最も強く思ったのが、手間暇仕事! ということだ。静脈がうっすらと浮き出た肌の塗りの決め細やかなこと! 特に足の赤みがかった様のリアルさといったらすさまじい。帰りに常設展でモネやルノアールの絵を見たら、塗りが荒いと思ってしまったほどだ。いや、もちろん、彼らの絵はわざと筆の跡を残しているわけだが。

 絵画は、手間をかければかけるだけ、ある種の完成度は明らかに上がっていくが、小説の場合、上がっているのかどうか分かりにくい。「ウルヴィーノのヴィーナス」を描いていた時のティツィアーノは大変だったろうが、実にやりがいもあっただろう。

 他に私が気に入ったのは「息子アンテロスをユピテルに示すヴィーナスとサテュロス」。ヴィーナスのはにかんだようなアンニュイなような表情が愛らしい。
 一方、ミケランジェロが下絵を描いたというヴィーナスは変だった。何というか女性アメリカンフットボールプレイヤーみたいな体型で、とても美の女神という感じではない。しかし、ヴィーナスを描くということは、その人がどういう女性を美しいと感じているかがもろに出るので、様々になるのも当然であろう。

 特別展の会場から出るとエスカレーターがあるのだが、みな上らずに立ち止まって乗っていた。無意識のうちに心が安らいでいるのであろう。

(08.05)



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