最近の東雲



グラスゴーで考えたこと



 会社の出張でスコットランドのグラスゴーに行った。グラスゴーには直行便がないので、ロンドン、ヒースロー空港で乗り換える。イギリスの空は、綿菓子のような密度の濃い雲が視界の遥か先まで垂れ込めていて、日本とはだいぶ違う。だが、雲の切れ間から見下ろしたヒースロー空港近くの街並みは日本とほとんど変わらなかった。違うのは言葉などのソフトで、ハードの部分はそれほど違わないものだと実感する。

 グラスゴーはイギリス第三の観光地だ。12世紀に建設されたグラスゴー大聖堂をはじめ、歴史的建造物が沢山残っている。だが、さらに驚いたのは、グラスゴーの中心部にビクトリア朝様式の建物がずらっと並んでいることだ。グラスゴーはスコットランドの経済の中心で、地価が急騰しているのだという。日本だったら、絶対高層ビルを建てるところだが、グラスゴーには中層階の建物しかない。大都会の真ん中で、どれだけ頑張って維持しているのだろう。
 また、ケルヴィングローブ公園の景色も印象深かった。グラスゴー大学の尖塔を借景に、銅像やら新緑の斜面やら輝く小川やらが、まさしく絵になるよう配されている。グラスゴーの街全体をトータルとしてデザインするという意思が感じられる。

 グラスゴー中心部は、夜でも多くの人が行き交っているが、数本通りを外れただけで、急に人通りが少なくなる。夕方、私は街の南を流れるクライド川に架かるアーチ橋を見ようと川沿いの道を歩いていた。霧のような雨が降り続く中を、足早に進む。道路の高架下に差し掛かった時、突然、ここは日本と同じだと感覚に包まれた。擦り減って、濡れた所と乾いた所でツートンカラーになったアスファルト。タンポポの生えた空き地。捨てられた空き瓶。行き交う車と人気のない歩道。大型ディスカウントストアの裏口。そこは日本の都市の郊外と全く同じだった。エントロピー増大の法則は、こんなに離れた場所をも均質化の波によって塗りこめてしまう。私は奇妙な感慨に打たれながら、その通りを歩き続けた。

 他とは違う存在であるためには、エネルギーが必要だ。それは町に限らず人もまた。

(09.04)



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