最近の東雲



宇宙エレベータの幸せな場所――宇宙エレベータ技術競技会レポート



 8月8日に船橋市であった宇宙エレベータ技術競技会を見に行った。昼頃に最寄の二和向台駅に到着。ネットで見た記憶を頼りに会場の方向を何となく見当をつけ、歩いていくと、住宅街に迷い込んだ。住宅街を抜け、梨園の脇をあてどなく歩いていると、遥か彼方に浮かぶバルーンが目に入った。どうやら何となくつけた見当が45度〜90度程ずれていたようだ。
 会場はただでさえ最寄り駅から歩いて二十分もかかるのに、激しく遠回りしたため、会場についた時にはくたくたになってしまった。

 会場の日本大学二和校地はだだっ広い草地が広がっており、遠くにぽっかりとオレンジのバルーンが浮かんでいる。近づいていくと、ひなびた野球場があり、その中央に人が集まって何事かやっている。そこからケーブルがバルーンに向かって伸びている。どうやらここからエレベータを上げるようだ。
 野球場の右側が小高くなっており、そこに出場者のテントが並んでいる。暑さのためか、まったりした空気が流れている。かき氷を作っていたり、親子連れにマシンの説明をしていたりと、競技前の緊張感は窺えない。唯一海外参加のドイツチームは蝉の抜け殻を手に乗せて記念写真を撮っている。奥の本部テントで訊ねると、午後の競技は強風でバルーンが流されてしまったために中断しているのだという。なるほど、それでみな、まったりしていたのか。

 競技はなかなか再開しない。バルーンは数本の紐によって固定されている。スタッフが車で紐の一本を野球場側に引っ張り始めた。無線で連絡を取りながら試行錯誤しているが、かえってエレベータの傾斜が急になり、木立にかかってしまったりと、なかなか上手くいかない。
 三十人ほどの見学者はグラウンドの方々に散らばって、おもいおもいに再開を待っている。子供連れもいたが、一人で来ている中高年が多い。アポロ世代だろうか。また、半分ほどが報道関係者の腕章をつけている。テレビカメラも入っており、メディアの注目は高いようだ。
 私も木陰に座って再開を待つ。グラウンドを取り囲むように蝉の声が響いている。風が心地よい。書きかけの小説を取り出して、修正を始める。修正が一段落して顔を上げる。もう一本のロープを引っ張ろうと相談するスタッフの無線が聞こえる。ここには宇宙エレベータを成功を願う人しかいない。こんな幸せな場所が他にあるだろうか。

 関連サイトを見る限り、宇宙エレベータは既存の技術の延長で可能なようだ。むしろ問題は、どこに作るか、どうやって費用を集めるか、テロ対策はどうするかといった政治的な所にある。
 この競技会も、今は極めて牧歌的だが、いざ、本当に宇宙エレベータを建設するという段になったら、大手企業が乗り込んできて、もっと観客向けのアピールの強い競技会に変るだろう。飛行船なんかを使い、競技が中断しないようにするだろうし、大型ビジョンで競技結果を逐一分かりやすく伝えることだろう。会場も辺鄙な場所ではなく、集客が見込める場所になるだろう。
 だが、そうなったら、きっと色々なものを失ってしまうだろう。
 結局、一時間半程待って会場を立ち去った。


追記)
@nifty:デイリーポータルZ:宇宙エレベーターへの第一歩!競技会を見てきた
にちゃんとしたレポートがある。
新聞報道によると、ミュンヘン工科大学チームが優勝したとのことだ。

(09.08)



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