最近の東雲



蕎麦屋の出来事



 先月、エンドレスエイト感想で、「つまらない人生を送っている人は、エンドレスエイトのささやかな違いに面白みを感じ取れるよう精進しないと、一生つまらない人生を送ることになる」といったえらそうなことを書いた。これは自分に向けて言っているのである。そこで、今回はささやかな出来事について書こうと思う。

 先日、昼飯を食いに蕎麦屋へ行った時のことだ。蕎麦屋と言っても、本格的な所ではなく、食券を買って食うような店だ。
 店は結構混雑しており、カウンター席はほぼ埋まっている。私はしょうが焼き丼を受け取ると、丸テーブルの一角に腰を下ろした。
 私の向かいでは男子高校生二人が蕎麦を啜っている。続けて、私の右側に小学校低学年くらいの男子が一人で座ると、ざる蕎麦を食い始めた。何故彼が一人で渋いものを食っているのか気になる所だが、彼は今回の話に全く関係ないので、彼のことは放っておいて、話を先に進めよう。
 私がしょうが焼き丼を半分くらい食べた頃、中年の夫婦が店に入ってきた。二人とも日に焼けてちゃきちゃきした印象だ。と、男子高校生の片方が、夫婦に、
「お久しぶりっす。」
と声をかけた。気づいた夫婦はカウンターで蕎麦を受け取ると、男子高校生の隣に腰を下ろした。
「やる気があるんなら、来てくれよ。」
おばさんが言うと、高校生は、
「やる気はあるっすよ。」
と飄々と答えている。
「今は火曜と木曜が練習なんでしたっけ。」
どうやら、高校生は夫婦が運営する何らかのスポーツクラブのメンバーらしい。
「今度の日曜に試合があるんだけど、人数が足りないんだ。」
おじさんの方が参加を打診したが、高校生は適当なことを答えている。
おばさんが、「どこかで続けてるのかい。」
と尋ねると、高校生が「やってますよ。体育で。」
と答えたので、夫婦は苦笑していた。

 私だったら、長いこと練習をサボっているクラブのコーチと町で遭遇したら、目を合わせないようにしてやり過ごそうとするだろう。だが、この男子高校生は堂々と自分から話しかけることで、気まずくなりかねない邂逅を笑いに変えてしまった。若いのに、見事な対人力だ。
 達人はあらゆる所にいるものである。

(09.09)



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