最近の東雲



彦根でなくては味わえないもの



 先月は近江八幡に行ったことを書いたが、その折に彦根に立ち寄ったので、そのことも書いておこう。
 彦根と言えば彦根城。彦根城と言えばひこにゃんである。彦根の町中にひこにゃんののぼりが立っている。土産物屋ではひこにゃんのテーマソングがエンドレスで流れていて、ふと気づくと「ひこにゃんにゃん」という歌詞を口ずさんでいる。恐るべし、ひこにゃん。
 そんなひこにゃんだが、何と、二次元のみならず三次元の世界にも存在しているのをご存知だろうか。私は時間が合わなかったが、毎日、何度か決まった時間、決まった場所に実物が登場するのだという。見かけによらず勤勉な奴だなあ、ひこにゃん。
 ひこにゃんは見れなかったが、彦根城自体は堪能してきた。まず、面白かったのが、お城の石段についての説明板だ。
「彦根城天守へ登る山道は4箇所ありますが、その石段は非常に登りづらいといわれています。もともと城への石段は、万一敵が攻め入った場合、歩調が乱れ一息で登れないよう、意図的に不規則に造られているものです。(中略)観光客の皆さんには、大変登りづらいと思いますが、十分気をつけてご見学ください。」
確かに登りづらい! しかし、彦根城は関ヶ原以降に造られた城なので、結局一度も敵に攻め込まれていないはず。結果的に城詰めの武士や観光客ばかりが登りづらさを味わっているというのはとほほな事態である。
 いくつもの城門を抜けて天守閣へ向かう。黒がベースの天守閣は小ぶりだが、さすが国宝だけあってどっしりとしたたたずまいだ。早速写真を撮り、さらに、石にカメラを置き、タイマーをセットして、自分が映りこんだ記念写真を撮っていたら、そばに居たおじさんに、
「何をやっとるのかと思ったわ。」
と笑われた。関西人は気さくだなあ。
 天守閣には欧米の女性四人組が来ていて、日本に現存する城のパネルを見ながら、
「ヒメジ。」「マツモト。」などと言い合っていた。すごいぞ城マニア。
 城そのものも良かったのだが、最も心引かれたのは降りてきた所にある庭園、玄宮園だ。西口から入ってすぐのあたりにある七問橋付近からの眺めに息を呑んだ。池に映りこむ木々の隅々までもがばっちり決まっていて一分の隙もない。自分が超邪魔になるのが目に見えていたので、自分を入れた記念写真は撮れなかったほどだ。
 実物ひこにゃんも登りづらい石段も、気さくなおっさんも庭園も皆、現地に行かなくては味わえないものだ。観光地としての命運は、わざわざ行かないと体験できないものの量によって決まるのではないだろうか。

(09.12)



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