テヅカイズデッド 感想



 『テヅカイズデッド ひらかれたマンガ表現論へ』(伊藤剛著、NTT出版)には多くのインスパイアを得た。筆者は「マンガがつまらなくなった。」という言説が横行しているのは、マンガ言説が手塚中心史観に捕らわれて、「ガンガン系」に代表される新しい表現に対応できていないからだと批判する。この指摘は、ライトノベルが批評家から無視されてきた構造と相似する。
 本書の白眉は、「同一化技法(一つのコマにはキャラの「まなざし」が描かれ、もう一つのコマにはその「まなざし」が見たものが描かれるという連続)」に代表される映画的技法と映画的リアリズムの浸透によって、「フレームの不確定性(コマを突き破るような表現を自然に行える条件)」が抑圧されたが、最近の「萌えマンガ」では同一化技法がさほど必要とされておらず、フレームの不確定性が復活しているという指摘だ。この現象はマンガに留まらない。『ぱにぽにだっしゅ』は本来フレームの確定したアニメであるにも関わらず、明らかにフレームが不確定だ。

 本書に対して批判を述べるなら、売れていることを技法的に優れている論拠としている点だろう。私はマンガが売れる主因はストーリーやテーマが面白く、読者の欲求と合致していることであり、技法的に優れているのは副次的要素だと思う。(ついでに言うと、メディアミックスなどの話題性も大きい。)現在最も売れているマンガは『ONE PIECE』だが、『ONE PIECE』が売れているのはストーリーが面白いからであり、手塚治虫の一歩先を行く技法を用いているからではないと思うがどうだろう。
 本書では、最近のマンガが技法的にも優れている例として、『ツバメしんどろ〜む』におけるデザイン的な美しさや『ブラックジャックによろしく』における視線誘導を挙げているが、全体の分量に比してあまりに少ない。もっと色々な技法に関する解説を読みたい。
 本書は値段が高いこともあってあまり売れていないようだ。新書で現代マンガ技法の最前線の解説書を出せば、馬鹿売れするのではないだろうか。

 本書そのものとは関係ないが、中条省平さんが朝日新聞に書いた本書の書評は素晴らしかった。特に「だが、とここでマンガ旧世代に属する私は悲しく思うのである。萌えを誘発するキャラがマンガ固有の魅力だとするならば、私はこの魅力とともにマンガの未来に行くことはできないな、と。」というラストは滅茶苦茶格好良いぜ!



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