とらドラ6!は何故面白いのか




 『とらドラ6!』(竹宮ゆゆこ著、電撃文庫)の面白さについて書く前に、小説の面白さについてまとめておこう。
 小説の面白さは内容と演出に分けられる。内容はストーリーや設定のことで、メディアミックスしても変わらない。一方、演出はメディアに依存するものを指す。
 演出の面白さは多様だが、内容の面白さを決めるのはただ一つ。情報管理だ。内容とは全て情報なのだから、これは当然だ。そして管理すべき情報は二種類しかない。過去の情報と未来の情報だ。
 過去の大きな情報をあえて伏せておき、最終的に明らかにすることで、面白さを生み出しているのがミステリーだ。一方、読者が「これからどうなっていくのだろう。」と興味を持つのは、未来の情報が伏せられているからだ。
 伏せておく情報は何でも良いわけではない。意外であり、かつ納得のいく情報でなければ、せっかく伏せておいても効果は薄い。伏せておく情報を読者にとって納得のいくものにするためには、伏線を張る必要があるが、張りすぎると予想され、意外ではなくなってしまう。つまり、こっそりと伏線を張っておく必要がある。
 また、情報の明かし方も重要だ。じわじわ明かすより、一気にどーんと明かした方が、読者への衝撃は大きい。

 (以下、抽象的ネタばれを含みます。)
 さて、とらドラ6!だ。これは一見、「生徒会長選挙を前に、北村がグレたのは何故か」というミステリー小説である。実際、ストーリーはその謎を軸に展開する。しかしながら、その謎は、本命の謎から目を逸らせるための捨石的謎である。読者が本命の謎が謎であったことに気づくのは、謎が明らかにされた直後だ。謎を謎として認識させないことで、隠された情報を意外なまま保つという鮮やかなテクニックにより、読者は大きな衝撃を受ける。これがとらドラ6!における過去の情報管理だ。
 一方、未来の情報管理も鮮やかだ。メインの謎を暴くため、探偵が立ち上がるのだが、その情報は上手く隠蔽されているため、読者はその展開に驚く。しかしながら、その行動はいかにもその探偵らしい行動であるため、読者に対し説得力もある。
 とらドラ6!の怒涛の展開。あれは「過去の情報」と「未来の情報」、二枚の強力なカードを巧妙に隠蔽し、立て続けにめくったことにより生み出されたのだ。

 その情報を演出するのが、あの素晴らしい文章だ。畳み掛けるような文章が『イリヤの空、UFOの夏』の『無銭飲食列伝』にも匹敵する臨場感を作り出す。ちょっとこれは分析不能だ。だが、一点挙げるなら、ものすごく情報密度の濃い文章であると言える。情報密度を極限まで高めてあるせいで、読者はアドレナリンがどばどば出て認識力がアップした状態を疑似体験することになるのだ。

 この話は竜児と大河を中心としない、脇のエピソードだ。だが、極めて重要なエピソードでもある。第一に、「未来の情報」をきっかけに、その人物が大きく成長するから。第二に、「過去の情報」が本筋に対する重要な伏線になっているからだ。
 とらドラ中盤の核となる、見事なエピソードだ。



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