ミステリーの罪――夏期限定トロピカルパフェ事件 感想
ミステリーとはそもそも罪深い娯楽である。だって、人が死ぬのを面白がるのだから。
米澤穂信さんはミステリーの罪に自覚的な作家だ。第一に殺人事件ではなく日常の謎で勝負している。派手な殺人が起こった方が読者の興味をつなぎとめやすい。あえて、殺人事件を扱わないという不利な制約を自らに課しているのは、米澤さんが作中で人を殺すことを嫌っているからではないだろうか。
『夏期限定トロピカルパフェ事件』(創元推理文庫)で米澤さんはさらに一歩踏み込んで、ミステリーを面白がる態度そのものの是非を問題にしている。主人公の小鳩君は推理の欲求を、ヒロイン小左内さんは復讐の欲求を抑え、日々を平穏に過ごすため、互恵関係を結んでいる。本作はすなわち、探偵と犯人が共同戦線を張ってミステリーが発動しないようにする小説なのだ。
シャーロックホームズを始め、探偵は変人揃いだ。結局のところ、探偵能力というのは動物的本能を凌駕する理知の力だ。見かけの現象の奥の真実を見抜く理知の力は一転して自らの真の心は曇らせてしまう。ミステリー愛好家が持っている推理力のようなものは幸せになるためにはむしろ邪魔なものではないだろうか。そんな人間の哀しみを本作は真正面から描く。
結局の所、自分の心を知ることが一番のミステリーなのだ。胸焼けのするトロピカルパフェのひどい味こそが謎を解く最大の鍵だ。
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