野性時代と小説新潮2005年10月号 感想




 「野性時代」は桜庭一樹さん、有川浩さんの短編を目当てに、「小説新潮」は若手作家座談会と桜坂洋さんの短編を目当てに購入。雑誌としては私のような人を狙ってライトノベル作家を起用したのだろうから、見事に釣られている。
 三作を読むと、ライトノベルと一般文芸の書き分けについて考えさせられる。
 「野性時代」の『辻斬りのように 桜庭一樹』はライトノベルではやりにくいことをやってみましたという感じでひたすらセックスセックスセックス! でも文体や小説内の空気はいつも通り。「――そのひとをわたしは自分の力でみつけた。」という文をやたら離して置くことで、失恋小説であることを巧みに隠蔽している所に感心した。
 一方、『ロールアウト 有川浩』は『空の中』から大人のパートのみを抜き出した感じ。有川さんの場合、元々文体などはライトノベルより一般文芸よりなので、普段通り。「男は小便に関してプライバシー意識が低い。」という指摘は言われてみればその通りだが、女性じゃないとこんなこと思いつかないよな。
 「小説新潮」の『10月はSPAMで満ちている 桜坂洋』は坂崎嘉穂の将来の話なのだが、『よくわかる現代魔法』とは文体をがらっと変えており、作者の器用さが際立っている。ちなみに主人公が就くことになる職業は私が先日「これを題材にしたら面白そうだ。主人公が生産性を無視してやたら凝った文章を書くとか。」と考え付いたばかりのアイデアだったので、ぐはあ、と思ったが、私の脳内に在ったのより明らかにディティールがしっかりしていて出来が良いので(当たり前だが)むしろさっぱりした気分だ。
 三作に共通していたのは、登場人物の年齢が大人だということのみ。結局、対象年齢が最も強固にジャンルを規定しているのかも。これって、群像10月号で福島亮大さんが、ジャンルが力を失い、時間のような環境が他者として立ち上がる、と指摘していた通りじゃん!
 「若手作家座談会 ”ラノベ”世界へようこそ! 桜坂洋・桜庭一樹・ともなが貴和・大森望」は桜組が仲良しだった。桜庭さんは宮部みゆきさんと言うよりは、角田光代さんあたりを倒しに行くのが良いと思う。
 文芸誌って半分ぐらいは連載小説な訳だが、連載小説の一回分だけはなかなか読む気にならない。そこら辺に文芸誌が売れない原因の一端があると思う。



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