人妻かツンデレか、それが問題だ――赤と黒感想




(本稿には『赤と黒』のネタばれを含みます。)

 主人公ジュリヤンが、人妻、ツンデレと恋愛する小説。『赤と黒(スタンダール著、野崎歓訳、光文社古典新訳文庫)』を一言で表すとこうなる。そしてほとんどそれが全てだ。もちろん、王党派と自由主義者の対立や、田舎と都市の対比といった要素もあり、当時の社交界や宗教界の描写は興味深い。だが、ジュリヤンが何をしていたのかというと、前半は人妻との恋に落ち、後半はツンデレと恋の駆け引きをしているのであって、他のことはその合間合間にちょこっと挟まれているにすぎない。
 こういう古典小説を読んで思うのは、別に難しい現代小説を無理して読む必要はないのでは、ということだ。そういう小説は、百年後には誰も読んでいないのではないか。何故なら、『ゴリオ爺さん』、『三銃士』、『嵐が丘』、『白鯨』といった十九世紀の小説(=百年以上生き残っている小説)は、どれもやたら登場人物のキャラが立っているのだ。『赤と黒』も例外ではない。ジュリヤンが最初に恋に落ちるレナール夫人はうぶで賢い萌えキャラだし、ツンデレのマチルドに至っては、主人公に冷たくされると言い寄ってくるくせに、主人公が恋に落ちるやいなや、冷淡になる始末だ。キャラクターを自然主義的キャラとアニメ・ゲーム的キャラに分類するなら、マチルドはシュナやルイズよりもアニメ・ゲーム的だ。シャナやルイズにはいくらか共感できるけど、マチルドには全然共感できないよ。しかもジュリヤンもツンデレだから壮絶なツンデレバトルになってるよ。何じゃこりゃ。
 こんな感じで、前後編の分厚い小説でありながら、それを感じさせない面白さであったが、偉大な古典という感じはしない。スタンダールが現代日本に生きていたら、美少女ゲームを作っているのではないだろうか。



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