彼方からの承認――アニソンの神様感想




(本稿は『アニソンの神様』の抽象的ネタばれを含みます。)

 『アニソンの神様』(大泉貴著、このライトノベルがすごい!文庫)には設定だけでやられた。ドイツ人留学生のエヴァが「日本のアニソンが、やりたいです!」と言う冒頭部を読んだだけで泣きそうになった。つかみだけで泣きそうになったくらいだからクライマックスときたらもう。電車の中じゃなかったらボロ泣きしてたね。
 本作が何故こんなにぐっとくるのか。それは承認願望を満たしてくれるからだ。自分や自分が大切に思っているものを他者に認めて欲しいという願望は人間の基本的欲求の一つだ。そして、承認してくれる人は出来るだけ自分から遠い人の方がうれしい。自分とは全然違う人から見ても優れているということは、それが客観的にみても優れているということを示すからだ。例えば、あなたがあるアニメを好きだったとして、アニメ研究会の仲間に「あー、あれ面白いよね。」と言われるのと、全然おたくじゃない友達に「俺普段全然アニメとか見ないんだけど、あれは面白いな。」と言われた時を比べると、後者の方がより嬉しい。おたくのひいき目ではなく、真に面白いのだと思わせてくれるからだ。

 『アニソンの神様』は承認の物語だ。中でも軸となっているのが、アニソン大好きなドイツ人エヴァ・ワーグナーと音楽一家に育った入谷弦人の相互承認だ。二人は性格、出身地、音楽に対する情熱、おたくに関する評価など、あらゆる点で大きくかけ離れている。それだけにそんな二人が少しずつ互いを認め合っていく過程は胸に響く。それを支えているのが躍動する文章だ。前作『ランジーン×コード』ではストイックな文章だったのでそれほど上手さが目立たなかったのだが、本作では圧倒的な熱量で読者をアニソンのライブ会場へ引きずり込んでいく。さすが大賞作家だ。

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東雲製作所評論部