作者は挑み、読者は試される――僕は友達が少ない感想




(本稿にはラノベ部と僕は友達が少ないの抽象的ネタばれを含みます)

 平坂読氏はライトノベルの常識に挑戦する。
 『ラノベ部』(MF文庫J)はこれまでの、「ライトノベルには物語が不可欠である。」という常識に真っ向から挑戦状を叩き付けた快作だ。
 『ラノベ部』、特に一巻はほとんどがその場その場のエピソードから成っており、過去から未来に向けたキャラクターの変化=物語が極限まで排除されている。作者自ら「ひたすら苦労して書いた」と言っているように、これは大変なことだ。何しろ、大抵の小説、特にライトノベルは物語の面白さで読者を引き付けているのに、それを使わないのだから。
 結局、あまりに大変すぎたのか、『ラノベ部』は三巻で終わり、後半は恋愛がからんできて物語の占める比重が大きくなってしまったものの、物語全盛のライトノベルのありかたに一石を投じたと言えるだろう。

 最新作『僕は友達が少ない』では「ライトノベルには恋愛が不可欠である。」という常識に挑んでいる。バトルのないライトノベルはいくつか挙げることが出来るが、恋愛のないライトノベルはちょっと思いつかないほど、恋愛はライトノベルにどっしりと根を下ろしている。その理由は、「恋愛要素がないと売れない」からだろう。だが、本当に読者は恋愛を求めているのだろうか。
 例えば、古くは『あずまんが大王』から『らきすた』『けいおん』といった、四コマ漫画原作のヒットアニメに、恋愛要素はほとんどない。これらの作品で描かれているのは女の子同士の友情だ。四コマ漫画やアニメではヒットしているのに、どうしてライトノベルだけが「恋愛要素がないと売れない」わけがあろうか。
 一般的に考えても、恋愛は結局のところ独占欲であるのに対し、友情は無私の愛でありうる。姜尚中氏によれば、夏目漱石は人間不信だったが、友人関係と師弟関係だけには希望を託していたという。

 『僕は友達が少ない』で最も面白かったのが、主人公達三人がギャルゲーを友達を作るゲームとしてプレイする、『ギャルゲヱの世界へようこそ』だ。三人は、「ギャルゲーでは登場する女性と恋愛関係になるのを目指す」という常識に捕らわれず、己が道を突き進む。その姿は作者の姿勢そのものだ。

 本作のヒーロー小鷹とヒロイン夜空が恋愛関係に堕ちずに友情関係で踏みとどまれるか。作者の挑戦であると同時に、売れなければ打ち切られてしまうという点で、読者の見識もまた試されているのだ。



僕は友達が少ない7感想
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