言葉の神様――伝説兄妹!感想




(書き忘れていましたが、本稿は伝説兄妹!シリーズの抽象的ネタばれを含みます。)
 伝説兄妹!(おかもと(仮)著、このライトノベルがすごい!文庫)は近しい小説である。親近感が湧くと言っても良い。それはギャグ(特に二巻のタフガイ)が私好みで、電車の中で笑い転げるのをこらえるのに必死だったとかいうことだけではない。
 最近のライトノベルはハーレムラブコメが全盛である。読者によっては、ハーレムラブコメの主人公に自らを投影し、嬉し恥ずかしなイベントを疑似体験して喜ぶのかもしれない。だが、私はぱっとしない主人公がモテまくっているのをみると腹がたつ。ちくしょう。俺はまるでモテないのに、こいつはモテまくりやがって。リア充は死ね! と呪詛の言葉を並べたくなる。その点、伝説兄妹!の主人公、柏木には、本当に親愛の情しか沸かない義理の妹、デシ子が一人いるだけで、まるでモテない。一時的にモテるようになっても、事件が終われば残るのはデシ子だけである。彼の非モテっぷりは実にリアルで身につまされる。
 また、ライトノベルでは主人公が善人であることが多い。普段はへたれな主人公でも、ここぞという時は果敢に命をかけて敵に立ち向かう。一方、伝説兄妹!の主人公、柏木は我欲の強いダメ人間である。シリーズが進むにつれ、ちょっとづつ成長してはいるが、やっぱり我欲が捨てられず、失敗をおかす。正義をかざす立派な主人公の言葉だとけっ、と思うひねくれた私だが、自分と同じようにダメな柏木の言葉だと、すっと胸に入ってくる。特に、柏木達のダメさによって事態が収拾する三巻の展開は、実に伝説兄妹らしい。
 金もなく彼女もいない。詩人を志してはいるがろくな詩が書けないダメ大学生の柏木だが、彼には義妹のデシ子がいた。だが、デシ子のいない我々は、如何にして己が心の安息を得れば良いのだろう。
 小説を書いていると、たまに、自分でもびっくりするような素晴らしい文章が書けることがある。自分にそんな力がないのは明らかなので、何らかの加護を感じずにはおれない。デシ子は柏木の詩に力を与えてくれた言葉の神様だ。だから、もし、我々が、文芸によって、人を動かすような力ある言葉を生み出した時、我々の傍らには愛らしい言葉の神様がいて、力を与えてくれているに違いない。きっと。



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