今だけを生きる――ファンダ・メンダ・マウス感想
まさに疾風怒涛。『このライトノベルがすごい!』大賞、栗山千明賞受賞作、『ファンダ・メンダ・マウス』(大間九朗著)はとにかく速い。読者の予想の斜め上を飛び越えまくる展開。畳み掛けるようなテンポの文章。初の小説にして即デビュー。何もかもが速い。
大間氏が影響を受けただろう作家グループに舞城王太郎氏や西尾維新氏らの「ファウスト系」がある。彼らがファウスト系と呼ばれるのは、作品を発表している雑誌が母体となった雑誌『メフィスト』にちなんで『ファウスト』と名づけられたからだが、「ファースト=速い」という意味で彼らの特徴を良く表している。
ファウスト系の作家は概して書くのが速い。速く書くということは、緻密な伏線や細部の完成度が損なわれる一方、ストーリーの勢いや、先の読めない展開を生む。そしてその速度は作品のテーマにも及ぶ。ファウスト系の作家が書くのはエネルギッシュな生であり、スローライフの勧めみたいなテーマで書くのは想像つかない。
大間氏はファウスト系の極北に位置する。「いい女はべらして万ケンシャンパンドンペリジャンジャンBMベンツにPMゲッツーみたいなことがおれの今の生活に少しも必要だとは思わない。」とか、これ以上速くすると、理解出来なくなるぎりぎりの所を攻めまくる。
必然的に、この速さが生む思想を、主人公のマウスは持つ。マウスは過去に拘らないし、未来に縛られない。常に今に全力を注ぐ。
冒頭の二頁に、マウスを象徴するモノローグがある。彼は、六ページの真ん中あたりで、「きっと誰も興味がない話だと思うけど横浜とハワイは似てる。」と両者の類似点を語り出す。だが、七ページでは、「ハワイのこた知らね、行ったことないし、マジ興味ねーよ。」と言い放つ。彼は、一ページ前のことにさえ囚われない。今、みんなをベストの状態にするためなら、何でもやるのだ。
小説は時間芸術であると言われる。大間氏は、全く新しい小説内時間を生み出すかも知れない。すごい作家が誕生した。
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