服が姥皮という盲点――キルラキル感想



(本稿はキルラキルのネタバレを含みまくっています。)

 『キルラキル』(監督今石洋之、シリーズ構成中島かずき)はど直球の王道アニメだ。よく80年台漫画のリミックスだと言われ、モチーフレベルではそうなのだが、物語レベルではもっとずっと古い英雄神話や通過儀礼など伝統的物語構造に依拠している。
 例えばオットー・ランクが指摘した英雄神話の構造を最近読んだ「まんがでわかる物語の学校」(構成大塚英志、まんが野口克洋)から引用しつつ、キルラキルとの対応を指摘してみる。

1.主人公は高貴な生まれである。
→纏流子は鬼龍院家の娘だった。

2.父は子供の誕生に際して禁忌を破る。
→父ではなく母の羅暁が赤子を生命繊維と融合させた。キルラキルでは通常の英雄神話と性役割が逆になっている。

3.子供は人ではない姿で生まれる。
→流子は人と服の融合体として生まれた。

4.子供は箱や船に入れられ流される。
→流子は死んだと思われ捨てられた。流子という名前そのものが流された者であることを示している。

5.子供は身分の低い人々に拾われる。
→纏博士に育てられたこともそうだが、満艦飾家がまさに身分の低い人々である。

6.子供は人の姿になるために旅に出る。
→5を纏博士だとすれば本能寺学園に来たことであり、満艦飾家と捉えれば関西に行ったのが旅である。

7.子供は自分と似た境遇にある何者かの手をかり人の姿になる。
→鬼龍院皐月の手をかりてアイデンティティを確立した。

8.子供は自分と父との関係を知り旅の果てに場合によっては父を殺し栄誉を得る。
→母を倒して世界を救った。


 また、同書の通過儀礼の構造とも対応づけることができる。

1.主人公は両親・庇護者から離れ何らかの”孤児状態”になる[分離]
→纏流子は纏博士を殺されて孤児になる。

2.主人公は親以外の誰かに庇護され仮の名や姿を与えられる[移行]
→満艦飾家に庇護される。神威・鮮血をまとったのが仮の姿である。

3.主人公は仮の名・仮の姿で労働をする。
→鮮血をまとって鬼龍院皐月達と戦う。

4.主人公の真の名・真の姿を知ることになる異性と出会う。
→流子と鮮血が友達であると看破した満艦飾マコのことであろう。異性ではないが。

5.異性に危機的な状況が訪れる。
→このままではマコ達みなが生命繊維に取り込まれてしまう。

6.主人公は異性のために試練を与えられる。
→母を倒すという試練を与えられた。

7.主人公と異性に結論が出る。
→マコが流子に帰ってきたらデートをしようと告げる。遊びに行こうと言わずにデートしようと言ったのは役割上マコが流子の異性だからだろう。

8.主人公は故郷へ帰る。めでたしめでたし。[再統合]
→鮮血と別れ自分の服を着る。

 かなり物語論に忠実に構成していることが分かる。


 キルラキルにはジェットコースターのようなストーリー展開、キレまくっている作画、声優さんの迫真の演技など多くの美点が存在する。そんな中、白眉と言えるのが服を移行対象に据えたことだろう。移行対象とは成長の過程で分離の不安を和らげ一時的に大人にしてくれる存在のことで、民話「姥皮」の姥皮、ライナスの毛布、ロボットアニメのロボット、トトロなどその形態は様々だ。だが役割上、主人公の側に寄り添うものが望ましい。
 そう考えた場合、服そのものが移行対象であるという設定はまさにコロンブスの卵だ。常に主人公に寄り添っている服は移行対象としてはこの上なくぴったりであるが、服を着るということが当たり前すぎて盲点になっていた。
 登場キャラクター全員が服を脱ぎ捨てたラストは全員が移行対象と別れ成長したことを示している。こんなに大勢が一気に成長した物語というのは空前絶後なのではあるまいか。

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