読みやすさと文学性――第3回『このライトノベルがすごい!』大賞感想


 第3回『このライトノベルがすごい!』大賞6作品を読んで感じたのは、文体がバラエティに富んでいるということだ。

 『ロゥド・オブ・デュラハン』(紫藤ケイ著)は重厚かつ流麗な文体である。倒置を使って文末に変化をつけたり、難しい言葉を使って雰囲気を出したりと、注意深く書かれており、一般的な基準で言えば最も上手い文章と言えるだろう。だが、ライトノベルのメインターゲットである中高生には読みにくいのではないかとも思う。

 『魔王討伐!俺、英雄…だったはずなのに!?』(遊馬足掻著)はウェブ小説だったという出自通りのウェブ文体である。具体的には描写が少なく、説明と会話で話がさくさく進み、すぐシーンが変わる。文章を集中して読まないウェブ読者向けに最適化された文体だが、紙の本で読むと、ちょっと物足りない感じがする。

 『薄氷あられ、今日からアニメ部はじめました』(島津緒操著)は内向的男子の一人称語りというライトノベルではよく見かけるパターンなのだが、そこはかとなくユニークな文体である。よくあるライトノベルは鈍感なモテ男子が語るのに対し、本作の火狩隆史は鋭い非モテなのが最大の違いであろう。

 『オレを二つ名で呼ばないで!』(逢上央士著)は典型的なライトノベル一人称文体である。他のがくせのある文体揃いだったのだが、これはものすごくサクサク読めて心が洗われるようだった。

 『ファウストなう』(飛山裕一著)は6作の中で最もユニークな文体であろう。三人称なのだがモノローグが中心で、それが主人公が頭の中で思い浮かべたことそのままみたいなモノローグなのだ。文学的である反面、不親切で分かりにくくもある文体である。

 『剣澄む』(ますくど著)は語り手の感想、論評の多い饒舌な一人称である。語り手の思考に沿って文章が連なっていくので、わりと読みやすい。蒼山サグ氏の文体に近い。語り手が相手を可愛く思う気持ちを存分に書けるので、ロリと相性の良い文体なのかも知れない。

 小説の文章の難しい所は、読みやすさと文学性が両立しにくい所だ。手垢にまみれた表現を使わず、作家ならではの表現をするほど文学性は高くなるが、読者からすれば凝った表現よりも手垢にまみれた表現の方が読みやすいのである。個人的な好みを言うと、基本的にはシンプルな文章だが、ここぞという時だけ文学的で凝った文章にするのが良いのではないかと思うのだが。

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東雲製作所評論部