メンバー続投型嵐の山荘ミステリー――六花の勇者2感想




(本稿は『六花の勇者』『六花の勇者2』の抽象的だがあからさまなネタばれを含みます。)

 『六花の勇者2』(山形石雄著、集英社スーパーダッシュ文庫)はページを繰らせる力の強い小説だ。普段、私は電車の中でしか小説を読まないのだが、家に帰ってからも読み続け、最後まで読み切ってしまった。

 本シリーズは凝りに凝ったミステリーだ。トリックではなく、構造そのものが凝っているのだ。
 本作のユニークな点として、ファンタジーのようでいてミステリーであることがよく挙げられるが、ファンタジー世界におけるミステリー自体は『殺竜事件』『折れた竜骨』など時折見かける。よりユニークな点は、犯人が殺人事件を起こす前に探偵が推理を始めること、そして嵐の山荘ミステリーなのに、登場人物が次巻へ持ち越されることだ。

 通常のミステリーでは、犯人が殺人などの目的を達成した後に、探偵が出てきて事件を解決する。それは当然で、犯人が殺人を犯そうと思っているだけでは犯罪ではないからだ。しかし、六花の勇者では、七人の勇者の中に、一人偽物が紛れ込んでいるという設定により、七人の内、まだだれも殺されていないにも関わらず、見つけ出すべき犯人が存在しているという奇妙な状況を作り出すことに成功している。
 この設定は、一巻だけで見ると、何てことないようだが、長期シリーズとしてみると、大きな意味がある。嵐の山荘ミステリーという、外部との行き来が閉ざされているため、容疑者数が確定しているミステリーの一ジャンルがある。『六花の勇者』も嵐の山荘ミステリーと言って良いだろう。
 従来の嵐の山荘ミステリーは話が必ず一話完結であり、シリーズものだとしても、一巻毎に別のメンバーによって話が仕切り直される。何故なら、一度探偵が謎を解決するたび毎に、被害者数人と犯人が退場するため、そのままシリーズを続けると、どんどん登場人物が少なくなってしまうからだ。この方式は、ミステリーでは当たり前だが、キャラクター小説として見ると、もったいない。せっかく作ったキャラ数人を、一話毎に使い捨てにしなくてはならないからだ。どうせ使い捨てだからと、探偵・探偵助手と犯人以外のキャラはあまり作りこまれていない嵐の山荘ミステリーも多い。キャラクターの生い立ちから背景までかっちり作りこんでくる山形氏がキャラクターを使い捨てにしたくないと考えるのも当然だ。
 『六花の勇者』一巻では、被害者をいなくすることで、退場者を犯人一人だけにした。二巻に至っては、事件の焦点を、テグネクの謎にずらすことで、嵐の山荘ミステリーにも関わらず、事件が解決しても同じメンバーが残ったままというウルトラCを達成した。
 もちろん、そんなことをするのは無茶なので、本作でも多少の無理が生じている。テグネクが気まぐれな性格という設定は、テグネクのキャラを立たせるのに大いに貢献しているが、ミステリーとしてみるとずるい。ミステリーでは、犯人が目的達成のために最大限合理的に行動するというのが暗黙の前提条件となっているからだ。もし、ミステリーで、犯人は何故、被害者の首を切断したのか、それは犯人の気まぐれだ、なんて結末だったら、読者は怒るに違いない。

 何にしても、二巻で敵方の狂魔サイドの事情も明らかになり、話はますますスケールアップしている。三巻は一体どういう構造のミステリーで読者を翻弄してくれるのか。書くのがものすごく大変そうなだけに、期待も大きいのだ。

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