東雲文芸12――音楽評論
ビートルズと自由



 ザ・ビートルズ(以下ザ)四人の基本的パートはジョージ・ハリスン(以下ジー)がリードギター(以下Lg)、ジョン・レノン(以下ジン)がリズムギター(以下Rg)、ポール・マッカートニー(以下ポー)がベースギター(以下Bs)、リンゴ・スター(以下☆)ドラムス(以下Dr)である、しかしながら、Drの☆を除き、役割分担は流動的である。ジンやポーがLgを担当し、ジーがRgに回ることもあったし、ジンやポーが鍵盤楽器(以下鍵)を担当することもあった。また、インド(以下印)文化に傾倒していたジーがシタールなどの印楽器を演奏することもあった。彼らが、直接演奏したわけではないが、ストリングス(バイオリンなどの弦楽器による演奏のこと。以下スト)をロックに本格的に導入したのもザが最初である。当時、ロック(以下6)はクラシック(以下倉)より下と見られていて、倉の演奏家が6に参加することなど考えられなかった。その頃、アメリカ合衆国(以下米国)ではしばしばストライキ(以下スラ)が実施されていたが、このことはザのスト導入と関係ない。

 ザの音楽の流動性は彼らの精神が自由であったことの反映と言えよう。四人がグリートブリテン及び北部アイルランド連合王国(以下英国)で勲章を受けた時のエピソードが象徴的だ。叙勲の時、四人はそれぞれ、ジーがジンにジンが☆に☆がポーにポーがジーになりすま(以下な)せて女王をからかったと言う。この際、ジーがジンである必要性はなく、☆やポーになせても良く、もちろん、なさずにジーがジーのままでも差し支えなかったわけだから、彼らは通常の人間より4倍も自由であった。グループ全体としては、4×3×2×1=24倍も自由であったと言えよう。
 しかし、ザの解散によって、なしの自由は失われた。ジーとジンとポーはザの路線をめぐってしばしば対立し、彼らはより一層の自由を求めてザを解散した訳だが、それによって、かえって自由を失ったのである。このことは、自由というものの本質を表しているのではあるまいか。


(08.06)

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