東雲文芸15――アルバムレビュー
エマサン・レイン&パーマン『博覧会の毛』




 『博覧会の毛』はエマサン・レイン&パーマンの十枚目のアルバムということになっている。なっている、などと微妙な言い方をしたのは、現在のエマサン・レイン&パーマンがオリジナルのエマサン・レイン&パーマンと同一のバンドと言えるかに関して複雑な問題があるからだ。

 エマサン・レイン&パーマンはメンバーの入れ替わりの激しいバンドだ。元々は『ジョーンズ』からエマサン、『シリアルエクスペリエンツ』からレイン、そして『バードマン』からパーマンが結集し、1970年に結成された。だが、その後、ドラムスのパーマンが普通の小学生に戻ってしまい、(何とパーマンは小学生だったのだ!)、エマサンも結婚を機に引退、残るレインも電脳の海に潜ってしまい、1975年には、オリジナルメンバーが一人もいなくなってしまった。
 この時点で、いや、メンバーが一人入れ替わった時点で、『エマサン・レイン&ブービー』とでも改名しておけば良かったのだが、彼らはオリジナルメンバーが一人も居なくなってしまった後も、『エマサン・レイン&パーマン』と名乗り続けた。もっとも、この段階では、メンバーが一人づつ入れ替わったわけだから、オリジナルメンバーの『エマサン・レイン&パーマン』と『ウィリアム・アリス&ブービー』とでも言うべき第二期『エマサン・レイン&パーマン』とは、継続性があり、同一のバンドと言えないこともない。
 だが、新生『エマサン・レイン&パーマン』は、1978年に解散してしまった。その後何度か再結成の噂が持ち上がり、遂に1992年、再結成するが、こうして出来上がったバンドは元のバンドとは似ても似つかぬものだった。まずメンバーが一人も重複していない。オリジナルメンバーのエマサン、レイン、パーマンはおろか、第二期メンバーのウィリアム、アリス、ブービーの三人の内の一人も含まれて居ないのだ。しかも、元の『エマサン・レイン&パーマン』はキーボード、ベース、ドラムスというキーボードトリオだったが、1992年結成の『エマサン・レイン&パーマン』はリコーダーのジャガーとウッドベースのイッキュウの二人によるバンドであり、楽器すら一つも重ならない。こんなバンドがどうして『エマサン・レイン&パーマン』であると言えようか。

 にも関わらず、『博覧会の毛』はまさに『エマサン・レイン&パーマン』と言うべきサウンドに仕上がっている。オリジナルの『エマサン・レイン&パーマン』よりも『エマサン・レイン&パーマン』らしいと言っても過言ではない。思えば、『エマサン・レイン&パーマン』はセカンドアルバムの『タルタル』があまりにヒットしてしまったが故に、以降ずっと、『タルタル』の『エマサン・レイン&パーマン』というイメージから逃れようと苦闘を続けてきた印象があった。ところが、第三期『エマサン・レイン&パーマン』は素直に『タルタル』の『エマサン・レイン&パーマン』を模倣したが故に、まさに『エマサン・レイン&パーマン』という音を実現したのだ。しかも、それでいて、楽器が全く違うが故に、オリジナルの『エマサン・レイン&パーマン』とは一味違った音色を楽しむことができる。往年の『エマサン・レイン&パーマン』ファンのみならず、この機に『エマサン・レイン&パーマン』に入門したいファンにも必聴の一枚だ。


(08.07)

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