東雲文芸22――説法集

シァうトゥストうはかく語りき


     説法337
 シァうトゥストうが廊下を歩いていると、弟子が屈みこんで何かを探していた。
 何をしているのだ。シァうトゥストうは言った。
 この辺で百円玉を落としてしまったので、探しているのです。弟子は言った。
 百円玉のことは忘れなさい。シァうトゥストうは言った。
 百円玉を空中で手離せば床に落ちる。すなわち、そなたが百円玉を落としたのは自然なことだ。
 しかるに、床にある百円玉は自然には手の中に戻らない。
 自然の流れに逆らってはならぬ。水流るるが如く生きよ。
 シァうトゥストうはかく語りき。

     説法342
 弟子がおつかいに出かけ、チロルチョコを九個買ってきた。
 百円預けたのに、どうして九個なのだ。シァうトゥストうが言った。
 消費税がかかるからです。弟子が答えた。
 小さなことをないがしろにしてはならぬ。シァうトゥストうは怒って言った。
 どうして、一個ずつ買わないのだ。一個ずつ買えば、十円には消費税がかからないから、十個買うことが出来たものを。
 シァうトゥストうはかく語りき。

     説法365
 シァうトゥストうがこの説法集を読んで言った。
 説法342は削除しなさい。どうしてこんな説法を収録したのか。
 それは師匠が私の百円をネコババした上に、その金で人をお使いに行かせ、挙句の果てには五円をケチって怒るような人であることを後世に知らしめるためです。弟子は答えて言った。
 すまない。シァうトゥストうは頭を下げた。どうしてもチロルチョコが食べたかったのだ。
 弟子は笑って言った。説法342を記した真の理由は師匠の人間味を後世に伝えるためです。完全無欠の超人よりも、欠点のある人をこそ、人は愛するものなるが故に。
 シァうトゥストうの弟子はかく語りき。

(09.02)

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