エロボケの効能――スクールライブ・オンライン感想



(本稿は『スクールライブ・オンライン』の内容に触れています。)

 私は王道なものより変なものを好む。『スクールライブ・オンライン』(木野裕喜著、このライトノベルがすごい!文庫)は『ソードアート・オンライン』と『アクセル・ワールド』を足して二で割ったような内容で、変てこさが足りないなあと思いながら読み進めたのだが、とても面白かった。やはり王道というのは面白いから王道になるのだと実感した。単に王道なだけでなく無駄なシーンがなくて完成度が高い。作家志望者として学ぶべき所が多い。

 本作からは様々なライトノベルの王道テクニックが学べるのだが、ここではエロボケを取り上げよう。エロボケとは私の造語で、主に女性キャラクターが主人公の男性キャラクターに対して発するエロいセクハラ発言を指す。『生徒会の一存』の紅葉知弦や『さよならピアノソナタ』の神楽坂響子など先輩女性キャラが使うことが多く、本作でも瀧智早先輩が連発している。語義通りの「エロボケ」はエロによって頭がぼんやりした人のことを指すが、ここで言うエロボケはむしろ切れ者が主人公をからかうために発するボケのことであり、ライトノベルでは定番のテクニックだ。
 では何故エロボケが有効なのか。まず前提として、フィクションにおいてエロスが重要であるということを確認したい。人間の三大欲求、食欲、性欲、睡眠欲の内、フィクションによって満たすことができるのは性欲だけである。偉大な作品には大なり小なりエロスが含まれていると言っても過言ではない。

 では、どうやって作中にエロスを組み込めば良いのだろう。まず考えられるのがストーリーの根幹にエロスを組み込むことだ。性愛をテーマとした作品とする以外にも、覗きの権利をかけてバトルするという設定の『おんせん部!』などはこのタイプだ。この方式は、自然に話をエロくできる利点があるものの、潔癖症な人やカマトトぶった人に敬遠され、読者が限られてしまうという欠点がある。
 次に考えられるのが、本筋と関係なくエロいシーンをぶち込む方式だ。代表的な作品に『ベン・トー』がある。この方法はとても難しい。何故なら、エロスが非日常のものだからだ。日常からいきなりエロいシーンになるのは不自然なので、ある程度紙幅を割いてエロいシーンへと導入しないといけないし、エロいシーンそのものもちゃんと描写しないとエロくならない。「太郎はおっぱいを見たがそのまま学校に向かった。」とか書いてもちっともエロくないのだ。にも関わらず、本筋と関係ないので、あまりページを割きすぎると話がとっちらかってしまう。アサウラ氏くらいの筆力がないと読者にこのエロシーンいらなくね? と思われてしまうのだ。

 そこで有効なのがエロボケである。エロボケの良い所は、全く話の流れを遮ることなくエロスを押し込むことができる点だ。女子がエロいことを言っているだけで、実際にエロいことが起こっているわけではないから、導入シーンもエロそのものの描写も不要でテンポよく話を進めることができる。もちろん、実際にエロいことが起こるよりはエロ度は低いのだが、連発が効くのでボディーブローのようにエロスを読者に蓄積することができる。さらに言うと、エロボケは小説向けの技法だ。漫画や映画などの視覚メディアでは、実際にエロいことが起きるのとエロボケとの間には格段の違いがあるが、小説においてはさほどの違いはないのだ。
 あまり注目されることはないが、エロボケはライトノベルによって育まれた偉大な技法と言えよう。

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