最近の東雲


第四回文学フリマ感想



 十時開場かと思って十時五分頃に行ったら、それは出展者の入場時刻で、一般の開場は十一時だった。K−BOOKsで時間を潰し、四十五分頃に戻って列に並んでいたら、みるみる列が伸びていき、十一時には百人くらいになった。スタッフの人が「『blackcherry bob』の方はこちらにお並び下さい。」と誘導すると、その列は殆どそのままそちらにスライドし、出展者が作っていた階段の途中まで伸びていた列の後ろについた。『blackcherry bob』の同人誌は、お一人様一冊限り五百円で、先日行われた同人誌引き換え券つきトークショーの入場料も五百円。ということはトークショーは入場料実質無料じゃん! 目の前まで行ったんだから入れば良かった!
 桜庭さんから本を受け取り、浮かれ気分で『ぞうのいる喫茶店』へ。ここは部の先輩と同級生がやっている二人結社で、挨拶をする。戻ってくると、中央の辺に数人の列が出来ていた。『グレ&画伯』の列だというので、並ぶ。浅暮さんと画伯は全員にサインをされていたため多忙を極めており、もっと暇だと思っていたのに、とぼやいていらっしゃった。
 榎本兄弟の本を購入し、波状言論の東さんは風邪でダウンという貼り紙を見て、事前にチェックしていた本は買い終わったので、後はぐるぐる会場を回る。何冊か買って二階に戻ってくると、『blackcherry bob』は発売が終了し、サインに移行していたので、列に並ぶ。お二人のサインは、まず桜庭さんが、「桜庭一樹 2005.11.20」と縦に書いて席を交代し、桜坂さんが「坂洋」と書いている間に桜庭さんが横からポットなどの小物立体シールをぺたぺた貼るという手の込んだもので、力の限りファンサービスするぞという意気込みが伝わってきて有難かった。
 サインが終了したお二人は、浅暮さんの所に行ってずっと話し込んでいた。すごく立ち聞きをしたかったのだが、みっともないので家路についた。以下本の感想。

桜色ハミングディスタンス   桜庭一樹×桜坂洋   blackcherry bob
何じゃこのラブラブ展開はっ! というのが第一の感想。お二人の中の人が出てくるメタ小説で、表面的には喧嘩したりしてるんだけど、本質的には「二人で一つの魂を持っている」みたいな話なわけで、これ以上ないくらいのラブストーリーだよなあ。ライトノベルの常に流行を追い求める実も蓋もなさを批判するシーンは痛烈だし、過去の自分と対峙する所でうるうるし、その後のシーンは鳥肌が立った。二人の掛け合いも、『トリック』みたいで面白かった。
ちなみに砂糖菓子の弾丸をめぐる戦いになるという私の予想はものすごく強弁すれば当たったと言えなくもないかもしれない。

グレ&画伯のおかしな手帖   浅暮三文×京部澤克夫  グレ&画伯 
アイデア・フラッシュ集にもくすくす笑ったが、「疾風小五郎秘帖」が面白かった。内容はとても馬鹿馬鹿しいのに、やたらシリアスな絵がついているので尚おかしい。

ぞうのいない喫茶店   本条恵  ぞうのいる喫茶店
ひとひらの恋   本条恵  ぞうのいる喫茶店
つながり   マツザキアサコ×本条恵  ぞうのいる喫茶店
僕らの電脳的生活   マツザキアサコ  ぞうのいる喫茶店
 
本条さんの歌では「大陸をクジラが、海をゴッゴルが支えていた頃生まれた言葉」が一番好き。どちらかというと縛りがある歌の方が、客観性が高くて面白い。マツザキさんのは雪うさぎの話が良かった。詩は疾走している。

ライトノベル評論(?)   細谷正充・榎本秋・榎本海月・極楽トンボ  MTI 
トンボさんの「愛すべき変なライトノベル達」はHP比1.5倍くらいの毒舌で、変なライトノベルをすぱすぱ紹介していて面白い。全体的に、すごくマニアックな内容なのだが、ライトノベル本の裏側にさらっと触れた記事もあり、貴重な証言だ。

富士見ミステリー書評本 文学フリマ版   慶応義塾推理小説同好会   
とりあえず全冊レビューしたのがすごい。ボロクソに叩いている本もあるのだが、世評が高いのは概ね高評価なので、全体としてのバランスはとれていそう。こうして見ると、富士見ミステリー文庫ってやたら色んな作家が書いているんだなあ。

描写祭   はまさん   Point Of View
私の問題意識とすごく近いことを、私より分かりやすく、具体的に解説していて勉強になる。ただ、筆者が批判する「それなりガイド」と筆者は、共に描写が重要であると考え、文学上の技術を誰もが使えるようにしようとしており、立ち位置はほぼ同じではあるまいか。。

死を渡る命たち Progressive27   早坂千尋・まるやまなおゆき・小川一水   
一水さんの『Live me Me.』は緻密に構築された設定で常識に対する異議申し立てをしている所がいかにも作者らしい。まるやまさんの『廬枕夢記』は創作意欲を刺激する。早坂さんの『牙の向こう側』はブギー以前のラノベっぽい。

月猫通り No.2109   新月お茶の会   
特集はファウストで、太田さんのやつかと思って購入したら、ゲーテのとの二大特集だった。太田ファウストに関してはわりと同意見。Vol.6で新人が発掘できるかが分かれ道だと指摘しているのが興味深い。ゲーテの方はやたら高飛車な所が面白い。書評は面白かった本について書けばよいのに。小説は未読。 

佐藤友哉論   森田真功   
「『世界』の終わり」に関して、精読した本。古今東西のあらゆる文献を引いてくる読書量と注意深さはすごい。評論全体を通しての主張があるとより面白いのだが。

SPIKE vol.14   吉本謙次他   SPIKE
森博嗣インタビューを目当てに買ったのだが、他の記事(現役早稲田大学生ドラッグディーラーの告白、とか)もしっかりしていて面白かった。「豆腐彫刻」などのしょうもないページもあって、荒々しい勢いを感じる。

リブレリ6   早稲田大学現代文学会   
17作品が紹介されているのだが、既読なのは『DEATH NOTE』だけだった。ううむ。

岩魚釜   野田吉一   「幻魚水想記」の会
六十五歳の作者による脳内ツンデレ少女萌え小説。駄目人間と一刻者の造形にリアリティーがある。超お買得価格五円は今回までらしい。

大塚英志は悪人なのか   Comicリュウ編集部   徳間書店 アニメージュ編集部
つきあいの長い大野修一さんのインタビューだけあって、かなり大塚さんの本音を引き出していて従来の主張が附に落ちた。特に文学に愛があるかという質問に対する答え、「「俺はまんがを愛してる」とか「アニメを愛してる」とか、「私は文学を愛してる」という言い方で、それは全部判断停止の方便じゃん。「愛」とかに関係なく、ジャンルの存続とか、作品の水準はあるべきなんだって。」に納得。豊崎由美さんの批判に対する回答になっている。結局の所、大塚さんはバランサーなんだね。

早稲田文学   早稲田文学編集室   
こんな超豪華かつ私好みな執筆陣の雑誌が無料で良いのか! 執筆陣に教師型の人が多いので勉強になる。それにしても赤字なので無料化ってどう考えても意味が分からないのだが、うれしいので良い。







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