最近の東雲



お台場で燃え上がらないガンダム



 東雲製作所の熱心な読者(そんなのいるのか?)なら二年前の七月、私が試験を受け終えてぱーっと読書したことを覚えておいでかもしれない。その時、試験に落ちてしまった私は、今回、再び試験を受けるはめになった。
 試験を終えた私は、今度こそスカッとするようなことをしようと思った。そんな時、目に入ったのが、お台場の潮風公園で等身大ガンダムの公開が始まったことを告げるポスターだった。しかも、公開開始は今日(7/11)だという。試験会場もお台場だったので、ゆりかもめを途中下車すればすぐ会場だ。もうこれはガンダムを見て熱く燃え上がるしかない! 私は意気込んで会場へ向かった。

 台場駅で降り、人の流れについて会場へ。来ている人たちは、三十代前後の男性が多かったが、カップルや子供連れの家族、老夫婦、外国人など幅広く、ガンダムのファン層の広さを実感する。等身大というからには、遠くからでも目立っているのかと思いきや、公園に入っても中々ガンダムの姿は現れない。だが、人の流れに乗っていくと、終に、赤、青、白のボディーが姿を表した。おおっ、これは・・・・・・

 何かなじんでいる。

 もっと、何じゃこりゃあ! というものを想像していたのだが、思いのほか、周囲の景観にマッチしていた。緑の公園の中、東京の湾岸ビル群を背に立ったガンダムは、ポーズも力の抜けた自然体、表情も憂いを含んだ静かなもので、普段からここに住んでるんで、特にお見せするようなものでもないんですけどねえ、といった佇まいだ。
 集まった観客達も、皆、記念写真を撮ってはいたが、写真を撮ると、他にすることがない。熱心なファンは、列に並んでガンダムの足元をくぐっていたが、足元よりも列の外からの方が全体が良く見えるので、わざわざ並ぶほどのことでもない感じだ。
 ここで、突如ザクが出現し、ガンダムと激しいバトルが始まったりすれば、会場は大いに盛り上がったのだろうが、そんなことはなく(当たり前だ)、観客達は、ただ、あぽんとガンダムを見上げているばかりだ。唯一盛り上がったのは、ガンダムが背から蒸気を吹いた時だが、それが終わると、皆、まったりとした様子で佇み、それに飽きると家路についていた。

 盛り上がりの薄いイベントではあったが、かといって、等身大ガンダムがつまらないイベントだったかというと、必ずしもそうは言えない。家路につく観客達は、高揚してはいなかったが、穏やかな表情で、失望を感じている風ではなかった。その表情は仏像を見た後のようだった。
 そう考えると、イベントの盛り上がりのなさは、主催者の狙い通りなのではないだろうか。確かに、ガンダムのテーマ曲をがんがんかけたりして盛り上げれば、観客はより高揚しただろう。だが、観客は高揚と引き換えに、穏やかな心を失ってしまっただろう。実際、ちらしには、「巨大な雄姿の先に見えるのは、安らぎと潤いの都市東京」という文言がある。そういう意味で、主催者達がガンダムに託したメッセージは、見事観客に届いたと言えよう。

(09.07)



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