最近の東雲
人が粘菌のようだ!――市川市民納涼花火大会感想
8月7日の第26回市川市民納涼花火大会を見に行った。同じものを対岸の東京側から見ると、第35回江戸川区花火大会になる。会社の先輩の話によると、花火は東京側で打ち上げているため、江戸川区会場で見ていると、火の粉が降ってくるらしい。その話を聞いていた友人は、「よし、それなら江戸川区会場で見よう。」と即決した。だが、その友人が来れなくなったので、市川市会場で見ることにした。
JR市川駅のホームに下りると、既に花火がぽんぽんと打ち上がっていた。会場までは結構離れているにも関わらず、腹に響くような破裂音が聞こえ、驚く。駅周辺には十人程の警官が警戒に当たっており、テロ事件の現場に来たかのような錯覚に陥る。
駅前ロータリーでは、大勢の人が立ったり座ったりして花火を楽しんでいる。河川敷の会場へ至る道の脇には焼き蕎麦やフランクフルトの屋台がゲリラ的に出店し、その合間には、道路に座り込んで見物する人の姿が見える。進むにつれ、見物人が増え、マンション脇の絶好のポイントでは、ざっと数えて数百人が道に座って花火に歓声を上げている。
工場前の道路を東へ向う。花火はしばらく単発の大玉が打ちあがり、ちょっと間が空いたと思うと、絨毯爆撃のような花火が空を埋め尽くす、というのを繰り返している。音からすると華々しい花火が上がっているようなのだが、工場の陰になって見えない。道路脇のマンションでは、どのベランダにも数人の人が出ている。たまに、建物が切れ、視界が開けると、そこには必ず見物人が立っている。普段、南の空が見えるかなんて、その場所の価値にはほとんど関係がなく、意識すらしない。だが、一年のうち今だけは「南の空が見えるか」だけが唯一無二の価値だ。
以前、粘菌が首都圏の鉄道網を再現したというニュースがあった。見物客の散らばりを見ていると、「花火が良く見える場所はどこか」という問いを、ヒトの集団という有機コンピューターを使って解かせた解を見ているようだ。
住宅街を縫っていくと、ようやく江戸川河川敷の会場に到着した。まさに芋の子を洗うように、どこまでも人が連なっている。だが、河川敷はだだっぴろいので、方々に数人が入れるくらいの隙間が開いている。私も通路の横の空きスペースで膝をついて空を見上げる。
間近で見た花火はすごい迫力だった。全天を光の筋が埋め尽くし、耳を聾する程の音が立て続けに襲来する。私は、こういう大規模な花火大会を見るのは初めてだったのだが、こんなのが無料で見られるんだから、そりゃ人が集まるよ、と思った。
帰りの電車に乗っていたら、街の明かりが花火に見えた。
(10.08)
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