最近の東雲



委員長は怒っている――官邸前抗議行動感想



 毎週金曜日に首相官邸や国会前で開かれている抗議行動を見に行った。六時半頃、霞が関の駅から地上に出ると、遠くで太鼓の音が響いている。誰かがマイクで何事かを怒鳴っているが、音が割れてしまって何を言っているのか聞き取れない。主催者がホームページで公開している地図を見て、国会前から霞が関駅周辺まで人で埋め尽くされているのかと思っていたが、官庁街では抗議行動参加者と思しき人はまばらだ。それよりも退庁してきた官僚の姿が目立つ。ぱりっとした背広を着た官僚達は、抗議行動には関わらぬように、そそくさと駅へ向かっている。
 官庁街を抜け、首相官邸前に向かおうとするが、警察官が六本木通りの信号で検問を引いており、関係者しか通れない。参加者に絡まれるのを警戒してか、警官の対応はあくまでソフトだ。
 誘導に従って国会前へと歩いていると、抗議の行列に飲み込まれた。主催者の音頭に合わせて「再稼働反対!」「大飯を止めろ!」というシュプレヒコールが上がる。見たところ、叫んでいる人は三割くらいだ。(国会前や官邸前ではもっと大勢が叫んでいるものと思われる)。抗議行動では、警察と主催者とで参加人数に大きな差があり、どちらが正しいのかと話題になった。だが、実際現地に行っていると、どこまでが国会周辺かも曖昧だし、純粋な抗議者と野次馬、単なる通行人が混在しているため、正確な人数を把握するのは不可能であることが分かった。

 誘導に従って、国会前へ向かう。国会前に人だかりが出来ている。そこへ向かう歩道の脇には、そこまで熱心ではない参加者達が、三々五々腰を下ろしている。このまま人だかりに入ってしまうと、終了時刻の八時まで帰れないことを危惧し、車道脇に設けられた帰還者用通路を通って、交差点まで戻る。対岸の道路では、サウンドデモの集団が大音量で打楽器を打ち鳴らし、それを警官が取り巻いている。私は道の脇に寄って、参加者達を観察した。
 参加者達は、年代的には老人から若者、親と一緒に来た子供までバラエティに富んでいる。だが、総じて真面目そうだ。ヤンキーやギャル風の人はいないし、ブランド物の服を着こなしたオシャレさんもいない。いかにも学生時代はクラス委員を押し付けられたような、間違っても盗んだバイクで走りだしたりしそうもないタイプ。要は私みたいなタイプの人ばかりだ。
 半分くらいが方方で配っている白風船を持っている。来る前の予想では、もっとお祭りめいた雰囲気なのかと思っていたが、大抵の人は真面目な顔で、あまり楽しそうではない。彼らは真剣に、政府に対して怒っているのだ。
 一人の逮捕者を出すこともなく、毎週抗議行動をやり続けている主催者達の努力は素晴らしい。だが、より幅広い参加者を呼び込むには、もっと楽しげな雰囲気を出す必要があるだろう。私が提案したいのは、テーマソングを作ることだ。単に「再稼働反対!」と叫ぶより、再稼働に反対する歌を歌った方が楽しいし、参加者がまた来ようという気になると思う。また、白風船だけだと雰囲気が暗いので、カラフルな風船を配った方が良いのではないか。こんなことを言うと真面目な参加者に、我々は真剣に抗議しているのだ、楽しんでいる場合か、と叱られるかも知れない。しかし、議会制民主主義の社会では、最終的に勝つのは数の多い方である。委員長だけでは選挙に勝つことはできないのだ。

 帰りに、桜田門の近くを通ったら、数人の皇居ランナーを見かけた。抗議集会参加者と皇居ランナー。二つの集団が、こんなに近くにいながら互いを意識することもなく、相交わらぬ世界を生きていることに感慨を覚えた。

(12.08)



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