最近の東雲



なめこと戦う覚悟はありや――iPod Touch感想



 第五世代が出て値下がりしたので、第四世代iPod touchを買った。今まで携帯音楽プレイヤーを持ったことがなかったので、目を開かれることが多かった。
 音楽プレイヤーを使っていると満員電車の中でもパーソナルスペースが出現する。最初の頃は、公的な空間で自分だけが周囲の人と違う音を聞いているのに慣れず、実はイヤホンが抜けてるんじゃないかとどきどきした。また、これまでは駅や車内の音に関して全く気にならなかったが、音楽プレイヤーを使っていると、車内放送や電車が鉄橋を渡る音、駅構内のざわめきがずいぶんとうるさく感じられた。
 iPod touchにはWifi機能がついている。Wifiの使える機器を持つのは初めてなので、面白がって色んなところで起動してみると、人の多い所では常時いくつものWifi電波が飛び交っている。世界の隠された一面を知った気になった。
 中でも、浅草橋駅での体験は劇的だった。勉強のために聞いていた英語の講演(TED)が浅草橋駅で終了し、再生を停めようとした所、突然ピアノのしみじみとした和音が流れた。CDから入れていたビートルズのLet it beだ。途端、見慣れていたはずの浅草橋駅のホームが映画のワンシーンのようにドラマチックなものに見えた。あのくたびれたスーツを着たサラリーマンもLet it be、あるがままにこの世を生きているんだなあ、と思うと、しみじみとした感動が私を包み込んだ。

 音楽プレイヤーに慣れてきた私はアプリをダウンロードしてみた。Paper Toss、ぐんまのやぼう、おさわり探偵なめこ栽培キットなどのゲームをやってみたのだが、どれもこれも全然頭を使わない。もちろん、パズルゲームのように頭を使うものもあるのだが、頭を使わないゲームの楽さは圧倒的で、気が付けば定期的になめこやこんにゃくを収穫していたりする。
 さらにその後App Storeをさまよっていた私はPodcastを発見し、すぐとりこになった。Podcastは目が疲れないし、本を読むよりずっと楽だ。Junk、特に爆笑問題カーボーイは車内で笑いをこらえるのが大変である。こんな面白いものが過去300回分も無料で配信されているのである。そりゃあ本が売れなくなるよ、と思う。

 昔の小説家はせいぜい漫画家と戦えば良かったのが、今では漫才師やなめこと消費者の時間を奪い合わねばならないのだ。一消費者としては娯楽が沢山安く手に入って素晴らしい時代だが、作家志望としては何とも大変な時代であるなあ。

(13.01)



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