テーマの味を引き立てるモチーフ――創世の大工衆感想




(本稿は『創世の大工衆』と『ドS魔女のXXX』の抽象的ネタばれを含みます。)

 二作目を読むと作家の本質が見えてくる。例えば、『ロウきゅーぶ!』に加え、『天使の3P』を読むと蒼山サグ氏が書きたいのは小学生であることが分かるし、『狼と香辛料』だけでなく、『マグダラで眠れ』を読むと、支倉凍砂氏がネタばれになってしまうので言えないアレをいかに愛しているかが分かる。

 藍上ゆう氏の二作目、『創世の大工衆』(このライトノベルがすごい!文庫)には驚いた。氏のデビュー作、『ドS魔女のXXX』は女子校に潜入した魔女が1000人の処女を発情させるために奮闘するという、全編エロのみみたいな小説だった。それが、二作目の『創世の大工衆』のテーマは大工だという。しかも、プロフィール欄には、「剣も魔法もバトルも萌えもエロも恋もなく、旅はしないし、舞台は学園でもない」と書いてある。私はデビュー作で、「藍上ゆう=エロ」という図式が脳内に刷り込まれていたので、エロがないと言っても、少しはあるんだろ、と思って読み始めたのだが、本当に全くエロいシーンがなかった。一作目がストイックな内容だったのが、編集部に魔改造され、二作目はエロいというのはライトノベルではよくあることだが、逆のパターンは初めてだ。それにもまして驚いたのが、モチーフにしてもキャラクターにしても、一作目と二作目で共通するものが何一つないことだ。桜坂洋氏の『よくわかる現代魔法』と『All You Need Is Kill』がえらく違うということで話題になったが、藍上氏はさらに一作目と二作目がかけ離れている。氏の本質は一体どこにあるというのか。
 だが、『ドS魔女のXXX』を読み返してみると、意外と共通点があることに気づく。共に巣立ちの話であること、主人公が孤独な異種族であること、そして、話全体のテーマが「みんな仲良く」であることだ。

 「みんな仲良く」というのは塩むすびのような素朴なテーマだ。『ドS魔女のXXX』ではそこにエロという強烈な味のモチーフを重ねたため、「みんな仲良く」の味が隠れてしまった。一方、『創世の大工衆』では、大工という渋いモチーフを重ねることで、素材の旨味が引き立っている。実にほっこりとした良い話である。

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東雲製作所評論部