大人になってやがて死んでも――よつばと!12感想




(本稿はよつばと!12巻の内容に触れています。)

 『よつばと!』(あずまきよひこ著、電撃コミックス)はどこまですごくなるのだろうか。
 春に始まった物語も12巻で本格的秋を迎え、描写にますます深みが加わっている。

 12巻で最も心打たれたのが、第79話『ヘルメット』でよつばが「むささびは…ほしみたいにとぶんだよ…」とつぶやくシーンだ。読んだ瞬間、目に涙がぶわっと湧いてきた。
 素晴らしいのは、ここでむささびが出てくる必然性が何もないことだ。
 例えば第78話の『あおいろ』は伏線の貼り方、回収しかたが非常に自然で大好きな話だが、ある程度理詰めで書けるので人間が描いたという感じがする。一方、「むささびは…ほしみたいにとぶんだよ…」という台詞は理詰めで考えていても、絶対書けない。それだけに、この台詞には創作の神様が舞い降りて書かせたかのような神々しさが宿っている。

 それでは、何故私はこのシーンで泣きそうになったのだろうか。
 原因の一つはノスタルジーだ。『ヘルメット』は自分ルールを設定したごっこ遊びとか、親に寝かしつけてもらうこととか、子供の頃のはっきりとは覚えていない古い記憶を刺激する要素が多くて、感情を揺さぶられる。だが、懐かしいだけなら悲しくはない。このシーンが物悲しいのは喪失感が伴っているからだろう。
 よつばのつぶやきを、とーちゃんは理解できない。よつばが「こっちあさなのに こっちよるだ」と感動しているのに、とーちゃんはよつばのようには感動できない。それはとーちゃん個人の問題ではない。多くの経験を積むことで、大人は色々な物を新しく感じることができなくなってしまっている。我々は何と大きなものを失ってしまったのだろうか。
 そして最も悲しいこと。それはよつばがそのうち大人になってしまうことかも知れない。太陽のように輝いているよつばも、いつまでもこの輝きを留めておけない。いつか大人になってやがて死んでしまう。そのことがどうしようもなく悲しい。

 だが、人間には芸術がある。『よつばと!』のような作品を読むことで、大人は忘れてしまったみずみずしい心を一瞬だけ取り戻すことができる。失われてしまったものを悲しむより、忘却に抗する素晴らしい作品があることを寿ぎたい。


よつばと!10巻感想
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