朝井リョウ氏がお見通し――何者感想



(本稿は『何者』のネタバレを含みます。)

 『何者』(朝井リョウ著、新潮社)は就職活動を描いた小説だが、現実の就職活動がそうであるようにストレスのたまる小説だ。主要キャラクター五人が五人とも嫌なやつであり、「ぶぶ漬け食べなよ。」「いえいえ、君こそ一昨日来なよ。」みたいな会話を繰り広げる。私なら絶対こんな連中と付き合いたくない。一応、主人公二宮が連中と付き合っているのにはプリンターを借りるためという理由は存在するのだが、プリンターなんて大して高くないんだから自分で買えば良いのにと思う。
 ここで描かれる嫌らしい嫉妬心と自己顕示欲がものすごくリアリティが高く(こんなにリアリティの高いツイートを作中で書いた作品が他にあるだろうか。)、自らの中にも同じ嫌な部分が存在することに気づいてしまうだけに、読んでいてがりがりと心を削られる。また、二宮がワナビーな旧友をディスる言葉にもダメージを受けた。二宮は何者でもない就活生であるが、これを書いているのは作家たる朝井リョウ氏であり、作家志望の私としては作家にワナビーをディスられているようでかなりつらい。確かに観察眼はすごいけどさあ、と不満を持って読んでいたのだが――

 最後まで読んだら私は完全に作者の掌の上だったことが分かって脱帽した。作者の抜群の観察眼が、読者が読んでいる未来にまで及んでいるかのようだ。
 デビュー作『桐島、部活やめるってよ』の時の朝井氏は自らの才能を読者に見せつけている所があり、「リア充が才能をひけらかしやがって。」と反感を覚えていたのだが、本作では読者に「リア充が才能をひけらかしやがって。」と思われていることすら見通しており、全知全能の神のようだ。まだ若いのにすごい作家になったものだなあ。

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