鋭すぎるワトソン――やはり俺の青春ラブコメは間違っている8感想



(本稿は『やはり俺の青春ラブコメは間違っている8』のあからさまなネタバレを含みます。)

 いや、これ単に雪乃が悪いだけじゃないの? というのが『やはり俺の青春ラブコメは間違っている8』(渡航著、ガガガ文庫)を読んだ感想だ。8巻ではある課題について奉仕部の八幡、雪乃、結衣の三人がそれぞれ別の解決法を提示し独自に動く。雪乃は自分の真の望みを明言しなかったので結果的に八幡が雪乃の望みを邪魔することになり、雪乃は
「わかるものだとばかり、思っていたのね……」
とつぶやく。

 分かるか!


 一言本心を告げれば良いだけなのにどうして相手に忖度させようとするんだ。お前は小沢一郎か!

 非常に感情が分かりやすい結衣とは対照的に、雪乃は何考えてるんだか分からないキャラだ。八幡のことを車ではねた話もいきなり言い出して伏線はどこ? という感じだったし、八幡に対し恋愛感情を抱いているのかもさっぱり分からなかった。この巻で家族のようなつながりを求めていたのだと分かるまで、雪乃の内面は徹底的に伏せられていた。

 ここで思い出すのがノックスの十戒だ。その中に「ワトソン役は彼自身の推理を読者に知らせるべきである。また、読者より頭の悪い人間が好ましい。」というのがある。『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』を雪乃の内面を探るミステリーとして捉えると、ワトソン役が読者よりもアホというルールに反している。本作の語り手=ワトソン役の八幡は普通の読者よりも鋭い。こんな鋭いぼっちがいるかよと突っ込みたくなるほど人間関係の機微を鋭く見抜く。そんな奴を語り手に据えるとどうなるか。
 この話を成立させるためには、雪乃の内面に八幡は最後まで気づいてはならない。
→鋭い八幡ですら気づかない程度のささやかな伏線しか張れない。
→読者が「分かるか!」となる。
という図式が成立する。ノックスがこういうルールを定めたのも、読者が「分かるか!」となるのを防ぐためだろう。

 だが、鋭さというのはあくまで相対的なものだ。私は八幡より鈍いので雪乃の気持ちに気づけず「分かるか!」となった。しかし八幡より鋭い読者が読めば「八幡、これは気づいてやれよ。」と思うのかも知れない。そういう意味で本作は読者への要求が高い小説なのだ。

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やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。感想
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