アハ体験の消失――神様のメモ帳(アニメ版)感想




 アニメ版『神様のメモ帳』は構成が凝っている。原作1巻を後ろに回してオリジナルエピソードを1話にしたのに加え、話数のかけ方にもかなりの濃淡がある。
 イケメンの四代目と平坂にスポットが当たった原作5巻を四話かけてやった一方、原作2巻と5巻にはかなり大鉈が振るわれている。先日放映された9話では、原作5巻のヤクザとの野球対決エピソードを、わずか一話に詰め込んでいた。確かにむさいおっさんヤクザのネモさんの話を長々やっても、人気が上がらないだろうという、スタッフの考えは分からないではない。分からないでもないのだが……

 『神様のメモ帳』はミステリーだ。長編ミステリーをテレビアニメ化するには、一つの問題がつきまとう。
 ミステリーは謎解きをする結末付近に、面白さが凝縮されている。長編小説を普通にアニメ化すると、最低二話以上必要だ。そうすると、小説の前半部分にあたる一話目(三話構成なら二話目も)が盛り上がりに欠けるのだ。連続殺人事件が起こるようなタイプのミステリーなら、サスペンス要素で前半も盛り上がるのだが、『神様のメモ帳』はそういうタイプの小説ではない。
 『神様のメモ帳』スタッフが、この問題の解消に腐心したことは、第1話を一時間にしたことからもよく分かる。面白さの凝縮された謎解き部分を、より多くの人に見せるための工夫だ。
 どうもアニメスタッフは、盛り上がりに欠ける回を作って、視聴を打ち切られてしまうのを極度に恐れているように見える。だが、盛り上がりに欠ける部分を刈り込めば面白くなるかというと、必ずしもそうではない。

 野球対決の回を例に採ろう。次回予告を見て、野球対決を一話でやる気らしいと知った時、とても無理だろうと思った。だが、出来上がったものを見てみると、見事に一話に収まっている。こうしてエピソードを刈り込まれてみると、必ずしも店長が元高校球児だったり、ネモが卑怯な手を使ったりする必要はないことに気づく。アニメ版の方が、一見、美味しいところがぎゅっと濃縮されているかに見える。
 だが、アニメ版を見ても、原作を読んだときのような満足感がない。何故か。原作では、早い段階で、「どうやって、剛腕投手のネモを倒すのか」という謎が提示され、読者はそれについて考えながら読み進む。だから、謎が解明された時、「なるほど! 」という快感を得る。茂木健一郎氏の言うところの「アハ体験」だ。一方、アニメ版では、事態が矢継ぎ早に進行するので、視聴者が謎について考えている暇がない。従って、ぐっとくる真相が明かされても、快感が薄いのだ。
 時間をかけて描いた平坂の話はぐっとくる出来だった。最後に、原作一巻を時間をかけてやるようなので、期待したい。



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