完成度と意外性――折れた竜骨感想



(本稿は『折れた竜骨』の犯人に関するネタバレを含みます。)

 『折れた竜骨』(米澤穂信著、東京創元社)は恐るべき労作である。大勢いる容疑者について一人ひとり犯人ではない理由を説明していくという構成だけでも大変なのに、それを十二世紀末の欧州でやるなんて調べることだらけで想像するだに大変そうだ。
 本作を読んで感じるのは完成度の高さだ。綿密に張られた伏線、主人公の成長物語としての物語構造、劇的なクライマックス。どれを取っても隙がない。

 唯一欠点を上げるとすれば、犯人が丸わかりなことだ。本作は特殊設定ミステリーなのだが、作者が特殊設定を導入した意図を考えると、犯人は二人に絞られてしまう。他の人が犯人なら、わざわざそんな特殊設定を導入する意味がないからだ。そのうち一人は早めにある条件によって除外できるので、その時点で犯人が分かってしまうのだ。従ってクライマックスで明かされる衝撃の事実にもあまり衝撃を受けられなかった。あのシーンで驚愕できたならどんなにか本作の面白みが増しただろう。

 完成度と意外性はトレードオフになっているので作者にはどうしようもない。結末の必然性を高めると読み巧者には先の展開を読まれてしまうし、あらゆる読者にとって意外な結末は必然性がないから完成度は低くなってしまう。
 完成度と意外性が共に高い小説を読む方法が一つだけある。それは小説を読み慣れぬ内に完成度の高い小説を読むことだ。『折れた竜骨』を中学生くらいで読めたならより興奮して読めたのに。それだけが残念だ。

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