2005年間小説年間ベスト10
例年通り東雲が去年読んだ小説のベストで、去年刊行された本のベストではありません。でもベスト10の内、6、9、10位以外は今年刊行ですな(2位は文庫化が今年だけど)。古本&図書館依存度が低下したのかもしれません。
1老ヴォールの惑星 小川一水 ハヤカワ文庫
個人的には小川一水さんの最高傑作だと思う。収録された四作どれもが傑作なのだが、特に表題作が素晴らしい。木星のようなガス惑星に生まれたこいのぼりみたいな形の生物の話なんだけど、これが生死に対する考え方など人間とは根本的に異なっている一方で、やっぱりこれは人間の話なんですよ。ラストの一言を読み返すたびに目が潤んでしまう。
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2麦ふみクーツェ いしいしんじ 新潮文庫
これはへんてこな話だ。そしてへんてこな人達の話だ。ストーリーを説明するのは難しい。とん、たたん、とん。なぐりあうこどものためのファンファーレ。この世に打楽器でないものはなにもない。次々起こる奇妙な出来事を貫いて天から降り注ぐように音楽が鳴り響く。へんてこな話が好きな人はもちろん、自分がへんてこな人もぜひ。
3アストロ!乙女塾! 本田透 集英社スーパーダッシュ文庫
『電波男』も良かったが、これはさらに面白い。モテないおたく少年が女装して女子校に転校し、次々と送り込まれる刺客と闘う話なのだが、とにかく息も付かせぬエロ馬鹿展開の連打で一気に読ませる。最近のライトノベルは一般小説として発表されてもおかしくない小説も増えてきたが、こんな妄想炸裂の御都合主義馬鹿小説はライトノベルでしか読めない。まさにライトノベルならではの面白さだ。
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4最後の夏に見上げた空は3 住本優 電撃文庫
もし死ぬ時期が分かっていたらどうだろう。死刑執行の前に死が訪れるなら法律なんて意味がない。そんな状況で人はどう生きるんだろう。本作は17歳の夏に死ぬことを定められた遺伝子強化兵の話だ。生きる長さは異なっていても、誰もが皆死ぬ。遺伝子強化兵達の思いは、だから僕らみんなの思いをぎゅっと縮めたものなんだ。
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5荒野の恋 第一部 catch the tail 桜庭一樹 ファミ通文庫
大活躍の桜庭さんだが、去年出た中ではこれが一番好き。十二歳の主人公山野内荒野のささやかな事件が大津波に思えてしまう感情を、丁寧にすくっていく感覚の冴えは他の追随を許さない。没入度の高い視点なので、読んでいる間は十二歳の少女になってぐらんぐらんすること請け合いだ。
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6青空のむこう アレックス・シアラー/金原瑞人訳 求龍堂
死んでしまった男の子がやりのこしたことを為すために天国から戻ってくる話、と聞くと、泣かせ系の話か、とお思いかも知れない。事実、私はぼろ泣きしたのだが、この小説はそれだけではない。人によってものの見方が異なること。それ故にコミュニケーションが難しいこと。でもだからこそかけがえのないことを書いているのだ。私達はまだ生きている。やれることは山程あるはずだ。
7戦う司書と恋する爆弾 山形石雄 集英社スーパーダッシュ文庫
人間爆弾vs武装司書である。仲間どうしでじゃれあう内容が多いライトノベルにあって、本作は尖りまくっている。この世界では人の命はゴミクズのように消費される。だが、あまりに軽い命が描かれることによって、逆に命の重みが浮かび上がってくるのだ。二作目も負けず劣らず面白い。
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8ある日、爆弾がおちてきて 古橋秀之 電撃文庫
ブラブラ三部作など、尖りまくりのど迫力暗黒ものを描かせたら右に出るものはいない古橋さんはハートウォーミングな連作短編も上手いぜこんちくしょうというのが本作。どれもこれも好きなのだが、クライマックスの必死な思いが伝わってくる「三時間目のまどか」が一番好き。2005年下半期2chライトノベル板大賞もとったのできっと売れることだろう。
9ショットガン刑事 強奪!エプロン刑事 秋口ぎぐる 富士見ミステリー文庫
「アストロ!乙女塾!」と双璧をなす馬鹿小説の金字塔。学内にマフィアや刑事がいるだけでも変なのに、常に全裸の「まるだし刑事」など出てくる刑事が皆変すぎる。全三作のシリーズなのだが、特にこの二巻はドミノ倒しのように怒涛の勢いで馬鹿が馬鹿を呼ぶ展開が素晴らしい。
10 神は沈黙せず 山本弘 角川書店
と学会の活動で有名な作者が、長年集めてきたオカルト知識の全てを煮詰めて止揚した根幹設定がすごい。これを教義に宗教を起こせばまちがいなく成功するほど、完成度が高く、とても論破できない。作者のような理性的判断をする人が増えれば、日本ももっと良い国になるだろう。
夏月の海に囁く呪文 雨宮諒 電撃文庫や
悪魔のミカタ5 グレイテストオリオン うえお久光 電撃文庫あたりが次点でした。
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